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第11話

「彼女いるんだよ、彼女」 あまりにもケロっとしてるから、納得してしまいそうになる。 「……不倫てことか?」 改めて尋ねると、まぁ、と言葉を濁す。 「そうはっきり言われるとな」 「濁したところでそうなんだろ?」 「まぁ」 そのままビールをあおる。横目で見ながら、俺もハイボールを一口飲んだ。 驚いたな。あんなに爽やかに幸せオーラ振りまいておいて不倫とは。 そういうのしなさそうな人ほどやるとか聞くけど、まさか隣にそんなのがいようとは。 幸か不幸か、俺は今まで一度も不倫中の人間いうのを見たことがなかった。知らなかっただけかもしれないけど、噂が耳に入ったこともない。もちろん、俺も不倫なんてしたことない。 いざ目の前で聞いてしまうと、自分の素行の悪さを棚に上げて、呆れる気持ちとザラつくような嫌悪感を覚えた。 「よくやるね」 まぁ嫌悪感覚えたところで、どうせこれっきりの付き合いだ。 「表に出してないだけでさ、結構みんなやってるよ。このくらい普通だよ」 「知らねぇよそんなこと」 適当に流そうとしたのだが、向こうの方が随分話したがった。 「すごい良い子なんだよ、10歳下のOLなんだけど、あ、うちの会社じゃないよ、ネットでね、知り合って」 「ふぅん」 「結婚してるってことはまだ言ってないんだけど、とにかく尽くしてくれてさ」 「はぁ」 「まだ付き合って2ヶ月くらいなんだけど、長く付き合っていけそう」 「そう」 「その前は1ヶ月ちょっとしか保たなかったから」 「……」 そういえば聞いたことあるな、不倫してる奴ってとにかく惚気たがるって。そうやって正当化したいんだって。 聞かされてるこっちは、全然いい気分しないのに、気づいてないみたい。 ただでさえ惚気話は嫌いなのに。

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