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第14話
「いや、正気だよ、本当に色っぽいと思う。ウチの彼女と同じくらい」
「……」
なんだか気味が悪い。
「なんていうの、その、喉から鎖骨にかけてすーっとしてるし、肩もほっそりしてるし」
「意味わかんねぇよ」
急に寒気を感じて、上着の首元を掴んで引き寄せた。
「そういう仕草もさ、ちょっと女っぽいよな。彼女もやるんだ、そういう仕草」
「はぁあ?」
さすがにイラッとして、思いっきり眉間に皺を寄せて睨んだ。
「いちいちお前の女と一緒にすんな!」
「怒るなよ、褒めてんだから」
「どこが褒めてんだよ!」
勢い任せに凄んでみせる。さすがにもう女みたいとは言わないだろうと思ったのだが、凄み慣れてないせいで自分の中でちょっと空回りした。
向こうにも伝わってたみたいで、ただ俺を見てニヤニヤしていた。
「まぁまぁ怒るなって、な?」
ポンポンと肩を叩いてくる。触られるのも嫌で、無理矢理振り払った。
女っぽいと言われたことはないけど、過去に男に抱かれたことを思えば強く否定も出来なくて、モヤモヤした気持ちを荒っぽいため息でやり過ごすしかなかった。
とはいえ刺青褒めたり女みたいって言ったり、一体何なんだこいつは。わざわざバカにされるために来たみたいな気分になる。
「……トイレ行ってくる」
バツが悪い。少し頭を冷やしてこよう。
「トイレなら奥だ、向こう」
彼の指の向きに沿って狭い店を、うなだれたまま奥に進んだ。
「ま、悪く思わないでくれよ」
彼が呟いたことも、カバンからピルケースを取り出したことも知らずに。
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