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第15話

トイレから戻って、残りの酒を飲んだ。 「じゃ、俺帰るから」 そのまま立ち上がる。適当に千円札を何枚か置いて。 「え、マジでっ、もう帰るの?」 「帰るよ。眠くなって来たし」 「早くね? まだ11時じゃん」 「おっさんになったからすぐ眠くなるんだよ」 「おっさんは俺も一緒だって」 退屈さも極まって、本当に眠くなって来ていた。トイレに行ったら少しは覚めるかと思ったけど、そうでもなかった。今日はどっちにしろいつものバーに行くのはやめてさっさと帰って寝よう。 それなのにこいつと来たら、随分俺を引き止める。 「あと一杯だけ付き合ってくれよ! あと一杯だけでいいから!」 「はぁ?」 「頼む!頼むから!そしたら俺も帰るし!な!」 両手を合わせて拝むようにして言われると、後輩のせいもあってか強く断れない。それでいい思いしたことなんか一度もないのに。 「一杯だけだぞ、一杯だけ」 結局また席についてしまった。 「よっし!今日は奢るからさ!」 爽やかに微笑む。 とはいえ裏の顔を見てしまった今、爽やかだなんてとても思えないけど。 野暮なことを言うつもりもないが、罪悪感もなさそうな奴といつまでも一緒というのもいい気分はしない。 (さっさと飲み終わってくんねぇかな) 変わらずテンションの高い彼の隣で、注文したソフトドリンクを飲みながら、演奏されていたジャズっぽい曲に耳を傾けた。

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