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第22話

「っ!」 驚いた彼が身体を離す。 口元に血が滲んでる。 ザマァ見ろ。できる限りの抵抗で、力一杯噛み付いてやった。 血生臭い感じがして、軽く横を向いて唾を吐き出す。その横顔を結構強めに平手で叩かれた。 「っ、てぇな!」 睨みつける。冷たい目が見下ろしていた。まるで虎と龍のように。 「おとなしくしてたらすぐ自由にしてやるって言っただろ」 唇を拭いながら、彼は低い声で言う。 俺は俺で、叩かれた横っ面が結構痛い。 「それともずっと繋がれてたいか? 誰にも見つけられないようにすることだって出来んだからな」 本当に出来んのかよそんなことと思いながらも、仮にここで殺されたりでもしたらシャレにならないとも思う。 反発心と恐怖心が拮抗する。ここは命を守る選択が一番正しいんじゃないか。恐怖心の中の冷静な判断が、心の中にある非常ベルを押した。 強姦事件の被害者に「何で逃げなかったんだ」と言う人がいて、自分もどっちかと言えばそう思っているタイプだったけど、いざ自分がその立場になると、なんて無責任なことを言っていたんだろうと自省の念に駆られた。 非常ベルのせいで、逃げようにも逃げられないんだな。俺の場合物理的にも逃げられないんだけど。 諦めて力を抜いた。露骨に力を抜いたから、向こうも俺が諦めたって気づいたらしい。 「始めっからそうおとなしくしてればよかったのに。イケメンが台無しだぞ」 うっすら笑いながら、まだヒリヒリするほっぺたを触ってくる。 熱いから多分腫れてるかも。 「ぜってぇ痛くすんなよ、少しでも痛くしたら、下手くそって言いふらしてやる」 我ながらまともな強がりも言えないのか。睨みつけながら、ガッカリするようなことしか言えない。

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