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★三つ目の帝王は燻る初恋に静かに深く焦がれる

短いようでとても長い500年。 面白みもない1日をただただ繰り返し。 いつしか下位の席次の者たちは消え、別の王がその席に腰かける。 二の椅子……この椅子も数千年前までは俺ではなく別の者がいた。 魔王は不老不死と唱われ、最強と魔族達からも畏怖と敬意の念を向けられている。 だが実際魔王は、勇者の手によって滅び消える定めとされ、それが運命だ。 それ故不死性だけを持ち実力を持たない魔王はすぐに討たれ跡形もなく消え去る。 勇者に討たれる運命を遅くし、歪め、うやむやにする。 勇者が手を出せない程の地位を確立する、そして純粋に強くなる、実に単純だ。 一席は並みいる王の中でも群を抜いて強く、世界一自由な魔王になった。 三席は鏡の世界に居城を置き、その姿を現すのは先の集まりしか無い、よって人族のほとんどは彼の存在そのものすら知らない。 二席である俺は、数ある人族が治める国を有無も言わさず降伏も受け取らず滅ぼし続けた。 2000年も前の事だ……今は一つの大陸の覇者、それが俺だ。 時は進み、場所は変わる。 棚や机には乱雑に積まれた書類、本棚にはギチギチに詰まった資料。 時代も変われば情勢も変わる。 王座にふんぞり返っていては大陸が寂れてしまう、夜中とはいえまだ目を通さなければいけない事案は数多い。 俺が椅子に座れば傍に控えていた侍女が湯気のたつお茶を淹れ静かにテーブルに置いた。 部屋の隅へと歩いていく様子をちらりと目に入れ、ぼんやりと意味もなく目の前を見る。 すると物静かだった部屋が騒々しく扉が開くことにより壊され一人の男が姿を現した。 「おっかえりぃ陛下! 今日は珍しく機嫌いいじゃん! うわめっずらしぃー! 」 「黙れ」 早々に騒がしくなった部屋に苛立ちを覚えるのをひしひしと感じ、目頭を抑える。 金の髪に男女問わず虜にしてきた甘い顔立ち、血のように赤い目をしている夢魔のマロウド、常にちゃらちゃらと笑う俺が最も嫌う系統の俺の部下になる程には有能な者だ。 「だってご機嫌でしょ陛下」 「そうか」 「そうだよ、ていうかまず俺がタメ口で話してんのに拳が飛んでこないじゃないか」 マロウドの言葉にフムと俺は顎に手をあて微かに頷く。 「…………そういえばそうだな」 「で? で?? なんでそんな機嫌いいのか教えてくれよ~」 目をキラキラと無邪気に聞いてくるこいつの何とウザいこと……。 「……お前に教えることはない」 「えぇそれひどくない? なあ教えてくれよ、お~し~え~!ふぎゃっ!! 」 「だまれ」 拒否の姿勢に入る俺にマロウドは子供のように俺の回りをちょろちょろと回りはじめたために俺のあまりしていない我慢の限界が訪れた。 軽く脳天に拳を入れれば大袈裟に痛がる反応するのもまたムカつく。 「おおいってえ………!、さてはついに陛下にも春が来たか……!? 」 春……恋、なるほど。 「…………4席が久方ぶりに目覚めただけだ」 以前、いや昔は末席にひっそりと座り、今は4席のあいつは昔から事あるごとに良く眠る、せーぶ? というものをするためらしいが良くわからん。 あぁそうか……眠っていたから小賢しい勇者や有象無象に見つかることなく、無事でいてくれたのだな。 だが、ここまで長く眠るのは初めてだ……。 「うわぁぶっきらぼうに言うね~でもそんなこと言いながら口元、ちょっとほころんでるよ? 」 「………そんなわけないだろう」 「あぁ戻した勿体無い、4席っていうと陛下の2席下か、どういう感じの魔王なんだ? 」 どのような……か。 昔は末席にチョコンと座っている姿が印象に残ってたな。 そして……。 「力はそこらの戦士より見劣りするが、特殊性で言えば魔王でも随一、だな」 ナイフを持っているがそれを主力に戦うわけでもない、氷結系の魔法は元人族として見れば中々のものだがそれが主というわけでもなく。 魔王特有の技能も遠隔操作を主にして暗殺に適している。 「………弱いってどれくらい?」 「丸腰なら大蛇と互角かそれ以下だな」 「……大蛇……モンスターですらなないじゃん」 「……ああ」 一般的に魔王なら丸腰でも洗練された五つの部隊を片手間で殲滅できるくらいの実力はある、はずだ。 「それで…………最高の状態だと 」 「下位の席次の魔王なら軽く消せる」 道具の扱いに関しては右に出るものはいない、爆弾や毒を使わせたら恐ろしいこの上ない……。 一度、あいつと共闘して攻めてきた国々を相手取ったが、ばらまかれた毒ガスによって相手の国ははなすすべもなく沈んでいった。 だがこちらにも多少被害を被った、まぁ誤差だな。 「……その差はなんだよ? 」 「あいつは可愛いらしい顔をして平気で俺らでも通用する劇薬を使うからなぁ、油断ができん」 「………劇薬ってどんなのだよ、てか可愛らしいっておい」 「龍もまともに食らえばドロドロに溶かす酸や普通のモンスターなら即死、魔王でも9席あたりなら肉体が死ぬほどの猛毒を散布する、しかも最悪なことにその本人は死霊族だからか毒はほとんど効かない」 本人の種族と能力がとても噛み合ってると言えるだろう。 「その魔王ってもしかして骸骨kブェッ!」 つい反射的に脳天に拳を入れてしまったが。 ふざけてるのかこいつ? 「なにが楽しくてスケルトンなんかに惚れるか、あいつは「一応」死霊系に収まっているだけであってほとんど人族と変わらん」 自分の頭をさすりながらマロウドは涙目になる。 「え、なにその子ってレイス?」 「きちんと実体を持っている」 「憑依系のやつ「違うと言ってるだろう」それ本当に死霊系なのかよ?」 「ああ、あいつは不死人と呼ばれる特殊な種族だ」 「不死人…?どっかで聞いたことあるな、ゾンビじゃあないのか? 」 「死人は中途半端に生き返ったただのゴミクズだが、あいつは死んで完璧に生き返っているようだったぞ?」 「…………一度は死んだのか?」 「そうみたいだぞ? 」 正直城の古い書物でも詳しくは書かれてないからはわからない、あいつ本人ならなにか知っているのではないか? 「なんで疑問形なんだ」 「あいつの事をそこまで詳しくは知らない」 種族もよくわからない、いつ魔王になったのかも、ただあいつの性格、暮らし、能力と行動心理を覗き、その様子が堪らなく愛しくなっただけだ。 「知っていることは?」 「可愛いくて愛しくて狡猾で姑息で臆病で泣き虫な小動物だな……! うむ!! 愛い」 どちらかといえば男よりの顔だが……それでも閉じ込めて思わず守ってやりたくなるほど小さくて華奢な体つきをしてしかもあいつは突拍子のないことを良くするから目を全く離せない。 「最初と最後おかしくないか?」 「そうだな……俺が半ば拉致同然で城に連れてきても苦笑いして済ませこの俺が意識してちょっかいをかけても赤い顔して怒るだけ、その上子猫が初めての威嚇をするように全く怖くない」 むしろ腕をぶんぶん振っているところはまさに小動物で可愛い。 その容姿、仕草、性格を事細かに伝えればマロウドは何故か顔を青く変える、 「…………此処に変態がいるし、それほど好きなら求婚すりゃいいじゃん…………」 「そう思うだろ!? 」 「お、おう………」 ガタンと乱暴に立ち上がりマロウドに詰め寄ればマロウドは後ずさりがらも頷いた。 「あいつはこの俺が結婚してくれと何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も!! 言っているのに、それをのらりくらりかわして結局今に至る………! あぁ、だが愛い! 」 地位や名誉は同格レベルである、金銀財宝も下手すればこの国の総資産よりもある、宝石も自分で取りにいく始末、ではあとは自分の力でやるしかない! 「……そんだけしつこきゃそうなるだろうよ」 「ハッ!(あいつ今確実に世間知らずだからなし崩し的に結婚にこぎつける…?)」 そして存分に甘やかして俺の腕の中で目一杯美味いもの食わせて…………。 「陛下……なんか不穏なこと考えてねえか?」 「ふっ」 「(笑った…………!?あの冷静沈着で表情筋が死んでるとまで言われた陛下が笑った!?)…………とりあえず仕事してからやってくれよ? 」 マロウドドン引きである。 「それはもちろんわかっている、(今すぐ会いに行きたいのだがな…………駄目か?)チラッ」 チラリとマロウドを見れば口元を痙攣させながら。 「し ご と をしてからな? 」 ここはスマイルとにっこりと完璧な笑顔のマロウドである。 「ムゥ…………!!」 確かに仕事はあるが…………チッ。 「ところで……その4席の魔王の名前は? そこまで陛下を変態にさせている魔王なんだ、相当なお方なんだろ?」 「あいつの名前か? 教えたくはないが……まあお前ならいいだろう」 ふざけた事を言う男だが、無駄な事はしない、まぁ俺の逆鱗に触れる事になれば消すだけだがな。 「名は、ラグーン、狡猾の王、パンドラの箱、生と死の狭間に微睡む唯一の存在だ」

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