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第33話
「なんだって……?」
彼が、驚きも露わに尋ね返してくる。
やっぱり変だと思うよな、男が男に襲われて、それがトラウマになってるなんて。
俺だってこんなこと言いたくなかったよ。
「写真あったろ、アレが雑誌に載ることになって、編集者の男に成り行きで襲われて、そいつ同級生なんだけどさ」
少しずつ話す。
「薬飲まされて、朦朧としてたから、抵抗出来なかった。手錠で繋がれて、無理やり」
髪をぐしゃぐしゃにかきむしった。
「怖くて、すげぇムカついて、でも全然抵抗できなくて、無理やり入れられるし、痛いし、やめてくれないし」
彼はしばらく黙って聞いていたが「もういい」と悲しげな声で言った。
「それから女も抱いてない。人に触るのが怖いし嫌だった。やっと普通に、酒飲んだり、人と話したりするくらいはできるようになった」
「もうよせ」
「あんたにキスされても抱きしめられても大丈夫だったから、もうホントに大丈夫だと思ったのに」
「……」
急にフラッシュバックしてくる。
あの景色とあの時の音、匂い、感触。
何をしても無力で、受け入れるしかなかったあの時のことを。
「俺は」
彼が口を開いた。
「お前を抱きたいためだけに、ここに呼んだんじゃない」
穏やかな口調で安心する。
「お前と一緒に居たいんだ。少しでも寛いでくれたら、それでいい。だから」
そっと手を伸ばして、俺の肩に触れる。
「そのことを少しでも忘れられるように、俺が出来ることをしてやる」
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