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第68話
「まぁ、嫌いじゃないよ」
ふっと笑って受け取る。ビール瓶も空いたところだ。
グラスを受け取り乾杯する。深くて優しい甘さが、ビール味だった口腔内に染みていく。
「あー、いいねぇ、美味い」
夜の滑らかな空気感を、もっと艶やかに演出してくれる。
「だろ。ブランデー醸造所から直接買ってるのさ、ここのブランデーが好きでな」
「へぇ。また高いとこ?」
「高いかどうかはわからないが、欧州の田舎町の醸造所なんだ」
「へぇ」
そんなとこの酒飲んだこともない。
ゆっくりと味わうと、体が熱くなってきた。
「手首、よかったな」
唐突に彼が言う。一度軽く聞き直してから、理解して「あ、うん」とだけ返した。
「お前自身の心の強さがあったから、乗り越えられたんだ。自信を持てよ、トラウマの克服なんて、そんな簡単なことじゃないぜ」
「まだ完全に克服したかどうかはわからないけどね」
「まぁな、専門家に掛かったわけでもないからな。でも、大きな一歩には違いないさ」
そしていい笑顔で笑う。
彼がいなかったら、俺はまだ手首に爆弾を抱えていたのは間違いないだろう。ずっと怯えて苦しんで、何度もあの日に引き戻されていたのかもしれない。
「多分、大丈夫だと思う。本当にあんたのおかげだよ」
手首見つめながら言うと、その手を取られてキスされた。
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