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第69話
「ほら、大丈夫だ」
戯けて笑う。
触れた唇の感触と、ふわりと漂う彼の優しく甘い香りが心地いい。
酒のせいだけじゃなく、体が熱くなる。
「あんただから、大丈夫なだけかもしれない」
ちょっと艶っぽい気持ちになって、試すようなことを言ってしまう。
じっと見つめると、向こうも見つめ返してきた。
「俺以外に触らせなきゃいい」
至って誠実そうな声だった。なんとなく、俺が少し興奮してきているのを察しているみたいだった。
恐怖心はなかった。手首のトラウマを克服した今、彼を拒絶するものは何もない。と思う。
拒否反応が出たって、彼なら絶対に受け止めてくれだろう。そう思えるほど、俺は彼という人間を信頼していた。
「触らせないよ」
ハッキリと答えると、一瞬だけ少し驚いたような顔をした。
「あんた以外に触らせたくない」
たたみかけるように言った。目をそらさずに、まっすぐに向かい合う。
彼が目をそらせた。
「参ったな」
本当に困惑したような言い方だった。
「そんな目で見つめられてそんなことを言われたら」
途端、グラスを柵の上に置いて、正面から俺を抱きしめてくる。
「我慢出来なくなる」
耳元で囁かれると、一気に身体中に熱がまわった。
俺も無理やりグラスを柵の上に置いて、彼の背中に腕を回す。
「もう大丈夫だと思う。あんたを受け入れられるよ」
自分でも信じられないくらい穏やかな声で、囁いていた。
「抱いて」
彼の喉がゴクリと鳴ったのを、間近に聞いた。
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