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第71話
あの時やたらに食事の感想を聞いてきたのは、そのせいだったのか。
「ま、あいつなりの心遣いってことだろ」
「どうだかな」
彼は笑うけど、やり方がオシャレなんだか露骨なんだか。
まぁいい。それならそのせいにして、彼にうんと甘えてやる。
羞恥心や葛藤はどこに行ったのか、俺には彼しか見えなくなっていた。こんなに強烈に他人を想ったのは、どのくらいぶりだろう。初めてかもしれない。
それを自覚すると少し緊張して、同時にもっと触れてほしいと思った。
「石鹸の匂いがする」
首筋に顔を埋めて、おもいきり息を吸われる。
「もうシャワーは浴びた。あと寝るつもりだったから」
「そうか、それなら好都合だな」
俺の服の裾から手を入れ、背中を撫でてくる。
「じっくり味わわせてくれ、お前を」
本当に優しく、猫でも触るみたいに撫でてくる。
「こちらこそ」
くすぐったくて笑うと、彼はそのまま一気に俺を抱きかかえて、部屋の中に引っ込んだ。
柵に並んで置かれたグラスは、三日月のわずかな光を受けて、俺たちを見る目のように光っていた。
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