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第86話

「いいぜ、セクシーだ、興奮するよ」 彼はひたすら褒めてくる。 そんなに褒められると、期待に応えたくなるのが人ってもんだよね。 「あんたも上手いよ、気持ちいい」 あんまり上手いことも言えないのがつらい。こんな語彙力なかったっけ、と幻滅するくらい。 首に縋り付いて彼の動きに身を任せるけど、彼は1つも強く攻めて来ず、俺が慣れるのをとにかく待つように、緩やかに突き上げ続けた。 「なぁ、もっとしても、大丈夫だよ」 我慢させたくない。 ただでさえ我慢させ続けたんだから、ここで我慢なんかしてほしくない。 彼は少し驚いた顔をして、微かに笑った。 「まさかそんなこと言われるとはな」 「はっ?」 「俺が気遣ってやるべきなのに」 俺の髪を撫でてくる。 こいつにばっかり気を遣わせてるのは俺なのに。 「違う、俺が気遣わせてるんだ、ごめん」 「お前は何も悪くない。悪いのは…」 それ以上何かを言いかけて、口をつぐむ。 言おうとしていたことは嫌でもわかる。抱きついて、背中をポンポンと叩いた。 「ありがとう」 「……いや」 「あんたのおかげだ、全部」 その気遣いが嬉しくて申し訳なくて、言葉が穏やかになる。 心まで穏やかになって、とにかく彼を安心させてやりたい思った。 「……好きだよ」 あまりにも自然に、囁いていた。

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