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第92話
静かな波音に鳥のさえずりが混じったのを聞いて、目を覚ました。
もう外は明るい。白い壁の部屋の中は、明かりが反射して余計に明るく感じた。
一瞬、本当に記憶がスポンと抜けて、此処がどこで何をしていたのか思い出せなかった。素っ裸の自分の状態を把握して、即座に思い出したけど。
(そうだ)
ヤッちまったんだった。
ちょっと気恥ずかしい、この気持ちはなんだろう。
真っ白いシーツはくしゃくしゃになっていて、変に生々しい。
隣にいたはずの彼の姿はなかった。いつも俺より早く起きて、朝食の支度をしてくれているけど、今日は目覚めたときに、何だか隣にいてほしかった。隣がすうすうして気持ち悪い。
頭を掻いて、体を起こした。上半身だけ起こす。穏やかな海が見えた。
本当に夢のような時間だった。
波の音と混じり合いながら、彼に抱かれたあの時間は。
眠って強制シャットダウンされた今の状態ですら、思い出すと体が疼いてくるから不思議だ。
(もう戻れないな)
彼がいない世界なんか考えられない。
けれど、ここがどこで彼が誰なのかを意識すればするほど、夢なんじゃないかとも思う。
いっそ夢だったら、かえってスッキリと目が覚めてすぐに諦められそうなくらい、彼のことが好きだった。
あれほど好きだ愛してると言いまくっていた彼を疑うわけではないけれど、彼は本心でどう思っているのだろう。
悩み始めるとキリがない。
(って、乙女かよ)
髪をぐしゃぐしゃに掻き乱す。
恋なのか愛なのかよくわからないけど、そういうものに振り回されるのは、生まれて初めてかもしれない。
見計らったみたいに、彼が部屋に現れた。
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