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第93話
「おはようハニー、 もうお目覚めか?」
ベッドルームのドアから顔を覗かせる。
ニカッと白い歯を見せて笑うところが、普段通りの彼すぎて、不安が一気に消えた。
「お目覚めだよ。今何時?」
乙女なことを考えてない体で、あくまで目が覚めたばっかで怠いですって感じで答える。
彼は腕に巻いてた高級時計を見て、もうすぐ10時だ、と笑っていた。
「マジか、もっと早く起きるつもりだったのに」
「なぁに、今日もバカンスだけで、特に予定もないんだ、何時に起きたって責めはしないぜ」
「そりゃそうだけど」
バカンス気分を脱却しようと運動したりパン作ったりしたはずなのに、本末転倒だった。
「はーあ、まぁいいか。おかげで目が覚めたよ、ありがと」
朝イチで彼の顔が拝めたのも嬉しいし。
うんと伸びをすると、彼が何だか神妙な面持ちで、ベッドの前に立った。
「なんだよ」
好きな相手とはいえ、何にも言わずにいきなり目の前に立つもんだから、少し身構える。
表情険しく、拳を強く握りしめていた。
(え、俺、もしかして殴られんの?)
そう思っても不思議じゃないくらいに。
途端、彼は俺の前に膝をついてた。騎士の敬礼みたいに。
「本当はこんなところで言うことじゃないんだろうが」
耳を赤くした彼が、拳を前に差し出す。もう片手で蓋をするようにしていたのを、そっと開いた。
現れたのは、キラキラと輝く、白とシルバーの混じったリング。
見た瞬間、心臓がギュッと収縮して、俺の中の時間が止まった。
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