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第94話

「Please,marry me」 頭を垂れた彼は言った。 「Marry!?」 思わず声が裏返る。 なんて? 今俺なんて言われた? 「こっそり作ったんだ、お前の薬指のサイズに合わせて。一級品の宝石でこしらえたんだぜ」 見るからに高いジュエリーだ、素人目にもわかる。白とシルバーに見えたけど、光を受けると控えめに何色にも輝いて、眩しいくらいだった。値段なんかつけようとしたら、ゼロがいくつつくかわからない。 「お前の傷が癒えたら、渡そうと思っていたんだ」 明らかに自分の人生には縁がなかった代物と対面して、シーツに包まって言葉に窮していると、顔を上げた彼と目が合った。 「受け取ってくれないか。必ずお前を幸せにする。守ってやる。ずっと一緒にいたいんだ」 頭に汗が浮かんでいるのが見える。緊張感がハンパない。 ……そりゃあ。 答えは。 「うー……」 何からくる感情の表現なのかわからないけど、俺の体は少し震えてた。彼の視線が、いつもより強く俺に向けられる。 なけなしの勇気を振り絞った。 「あのー、えっ、と」 しどろもどろになっちゃう。変に腹が痛い。 「俺……俺は……っ」 少しずつ声を絞り出す。腹の痛みがひどくなってきた。 彼の視線に晒されたままだと、余計にキリキリと痛んで。 痛んで……。 「……ごめ、ちょ、といれ……!」 ガチの腹痛で、思いっきり起き上がってトイレに駆け込んだ。多分彼に出されたアレのせいだ。 大丈夫かハニー!と向こうから彼が騒いでる。けど、それどころじゃない。 答えはトイレを出たら、ちゃんと伝えよう。

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