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Ⅰ【荒城の月】 第2話

風の奏でる湖に、音はない。 波が浮かんでは消え、消えては浮かぶだけだ。 半年 半年でここまできた。 半年前まで、俺たちはαに虐げられる家畜だった。 SSLU (second sex liberty union) 第二次ヤルタ会談にて、日本は条約に調印した。 この瞬間から、日本は狂い始めた。 少子高齢化 日本の人口減少は留まる事を知らず、遂に内閣は、諸外国と足並みをそろえるとの名目のもと、SSLUに加盟する事を閣議決定した。 しかし、この条約こそ悪魔の契約にほかならなかったのである。 人間は男女の性(第1性)と、α・β・Ωの性(第2性)を有している。 体の見かけ上の性別が、男女 生殖行為で放精できる性別が、αとβ 授精できる性別が、Ωである。 特にαは放精能力がβよりも優れており、また他の能力についても生まれつき、βやΩよりも秀でている。 ゆえにαは、様々な社会的要職に就いている。 条約締結はα主導のもとで行われた。 内閣を構成する大臣は全員αだったのだから 条約が、第2の性の自由と平等を(うた)っているのは表向きだ。 実際にはαの生殖行為の肯定にほかならない。種の保存の名のもとに、どんな生殖行為もαであれば許される。 例え犯罪であってもだ。 更に、遺伝子の優性を保護するためにΩは優先的に優れたαにあてがわれる。 決定権はαのみにあり、Ωにはない。 受精率を上げるために、Ωへの薬剤投与や遺伝子操作も、日常的に行われている。 ユニオンに加盟する事で始まったαの専横政治に、人口の大多数を占めるβは反発したが、それも束の間。 αの特権の一部をβにも認める事で、α内閣はβの懐柔に成功した。 α内閣による時限立法により、社会的地位を貶められたΩは、法律が正式に制定されると、αの庇護なしでは生きられなくなった。 ………………しかし これこそが、俺の目論(もくろ)み通りだ。 俺の頭脳にかかれば、このいびつに歪んだ社会こそ、転覆も容易い。 αの庇護なしでは生きられないΩ つまり、Ωは社会的地位のあるαのもとにいる。 金も、権力も、名声も、αは持っている。 『奪え!』 『奪ってしまえ』 『 虐げる者から、すべてを』 『 我が物にして自由を手に入れろ!!』

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