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Ⅰ【荒城の月】 第7話
「……いえ」
頭 を振って、はにかんだ笑みをそっと浮かべる。
「Ωだからではなく、あなただから」
サァァァー
湖面の波が弾けて、淡い月光がゆらゆらたゆとう。
「統帥を愛しています」
月の光が波間に沈んでいく。
「不器用だな、アキヒトは」
「そうでしょうか?」
あぁ、不器用だとも。
「告白するなら、名前で俺を呼べ」
「いいえ」
俺よりも背の高い場所から、もう一つの月光
……彼の瞳が、俺を捕らえている。
「あなたの名前を呼ぶのは『番』になった時だと、決めていますから」
それまでは我慢しますよ。
……と、屈託のない笑顔を見せた。
「お前は頑固だ」
「それなら少し、自覚はあります」
伏せた睫毛を風がさらう。
「俺を『番』にしてどうする?怖くないのか?」
この仮面の下の顔が
「どんなナリが出てくるのかも、分からないんだぞ」
「怖くありませんね」
微笑を含んだ声は、即答だった。
「中身に惚れてるんです。見てくれに惚れた訳ではありませんので」
「………ほんとうに頑固だな」
「だから、そう言ってるでしょう。そろそろ理解してください」
ふわり
端正な指先が、風に流れた俺の黒髪を絡めとった。
「あなたこそ、聞かないんですか?」
………………聞く?
「お前にか?」
なにをだ?
クルクル指先が、黒髪を弄 ぶ。
「俺、ちゃんと雄の生殖ができるβなんで安心してください」
………………
………………
………………
(なッ)
なんって事をッ!
つまり、それは~~ッ。
………………
………………
………………それは、その~~。
(ダメだ!俺の口からは言えないッ)
仮面があって、この時ほど良かったと感じた事はない。
顔が熱い。
こんな顔、絶対アキヒトには見せられない。
「そんな事は知っている」
そう返すのが精一杯だ。
だが。
ハッとして、弾かれた面持ちをしたのはアキヒトだ。
「どうして知ってるんですか?」
「………………え」
「もしかして、俺がオナニってるとこ覗 いた……とか?」
…………………………はァァ?
「ヤベっ。それ、すげー興奮するんだけど」
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