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Ⅰ【荒城の月】 第10話
当時、医療局では第2性転換の研究がもてはやされていた。
Ωは人口の二番目を占めているとはいえ、大多数のβと極少数のαを合わせると、圧倒的にΩの数が足りない。
そこで始まった研究が、第2性転換だ。
ごく稀に、生まれた時の性から第2性が変わる突然変異が起こるらしい。
この現象を解明し、生まれた時の性を無理矢理、変化させる医療である。
………が。
これは、あくまでも発展途上の医療分野だ。
臨床実験さえ上手くいっていないのに、成功する訳がない。
医療とは到底認められない処置は、現在では禁止されている。
しかし、アキヒトは………
当時、法律上はまだ認められていた第2性転換の犠牲となった。
テンカワ当主は、βのアキヒトをΩ転換して有力なαに嫁がせ、αの親戚になる。
あわよくば、アキヒトとαの間に生まれた子を養子に迎えて、テンカワ家を継がせようとしたのだ。
アキヒトは親に捨てられた。
(アキヒトの『恨み』は、深く、哀しく、切なく、苦しい)
だから、アキヒトは誰よりも生きようとする。
誰よりも『生』に執着しているのだ。
(この痛みに負けたくない)
生きる限り続く痛み
心の傷
死んだら負けだ。
ゆえに、生き続ける。
生きて痛みを背負う事が、唯一、痛みに打ち勝つ事だと……
(アキヒトは知っている)
幸いにして、第2性転換は禁止され、アキヒトは自分の意志に反してΩにならずに済んだ。
Ω転換に施された薬物を抜く処置は、激烈を極め、かなり厳しい状態だったと聞く。
βの放精する生殖機能を失わなかったのは、奇跡的だったらしい。
アキヒトもαを恨む者のひとり
世界の理不尽を憎んでいる
だから、俺はアキヒトに………
近づいたのかも知れない。
彼を縛りつける呪縛と、根深い怒りの火が美しいと感じた。
テンカワ アキヒト
(お前こそ俺の右腕にふさわしい)
根深い痛みの火こそ、
消える事のない闇を照らし続ける。
苦しみ抜いた火であるからこそ、照らせる世界が在る。
(俺は、お前の根深い闇と火に惚れている)
だが、この感情が………
お前の語る『愛』というものと同じなのかは分からない。
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