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Ⅱ【ローエングリン】 第6話

柘榴(ザクロ)の光が夜を焼く。 蒼い閃光が影を裂く。 接近戦に特化した近距離戦闘用ジェネラル《(ウラミ)》 レーザービーム射撃を備えた中距離戦闘用ジェネラル《荒城(コウジョウ)弐式(ニシキ)》 二体のジェネラルに死角はない。 俺とアキヒト 俺たち二人のコンビネーションの前では、αのジェネラルなど鉄屑(てつクズ)も同然だ。 戦闘能力がないなら、せめて敵ジェネラルの性能くらい把握しとけよ。 (いや、それもムダな努力か) 止められない。 俺たちのジェネラルを、α如きではな。 (鶴翼の陣を敷いた時点で、お前たちの敗北は決定したんだ) 三方ヶ原(みかたがはら)の戦いに於いて、徳川(とくがわ) 家康(いえやす)武田(たけだ) 信玄(しんげん)を鶴翼の陣で迎え討ち、大敗を期した。 命からがら徳川家康は居城である浜松城へ敗走したが…… 「お前たちに帰る場所はない」 息絶えるんだよ、ここで 全員死ね! 陣が崩壊し、雲散霧消する。 逃げ場のない《タンホイザー》が、活路を求めて戦闘体勢に入るが、統率がない。 個体の能力で劣るというのに、陣も組まずバラバラで勝てる訳ないだろう? ジェネラル戦において、αの定説は覆っている。 αの能力は、人間の持つあらゆる面においてβ、Ωよりも秀でているというが。 (その理論は古い) 超える事ができるんだ。 俺たちは、αを! 「来るぞ!アキヒト」 死中に活を求める人間は必死だ。 死に物狂いの戦闘を仕掛ける。 戦いの勝敗はついてはいるが、何をしてくるか分からない。 《タンホイザー》がうなった。 ビームサーベルを抜く。 「アキヒト!」 なにをしているッ! 「動けッ!」 辛うじて。 《荒城弐式》の柘榴の羽が発射したビームがサーベルを弾いた。 わずかにできた一瞬の間合いに、《憾》の蒼いサーベルが《タンホイザー》の装甲を貫いた。 「どうした?お前らしくないぞ、アキヒト」 《タンホイザー》がこの戦場を離脱するには、突破口を開かねばならない。 前は、Ω解放軍本隊と《荒城弐式》 後ろは、《憾》 どちらに活路を見出だせるかは明白だ。 数で圧倒的不利の前方に攻撃を仕掛けるバカはいない。 勝機のない戦闘を臨むよりも、わずかでも勝機のある後方に、攻撃は集中する。 「お前らしくないぞ、どうしたんだっ」 アキヒトならば、どんな攻撃を仕掛けられようとも敵を落とす。 勝てる。 そう信じて、任せた。 だが。今の彼は…… 「何があったんだ!答えろ、アキヒト」 ……………… ……………… ……………… ツッ 無線が光った。 『………感応性がおかしいんです』 (なんだとッ) ジェネラルは、それぞれ感応性を持っている。 パイロットデータに応じてプログラミングされ、操縦の機敏性を高めている。 大分類はα・β・Ω そこへ、個々の操縦の得手、不得手をデータ化しプログラミングする。 これをジェネラルの感応性と呼んでいる。 (感応性に不備が起こった) 操縦基盤に予期せぬエラーが生じたのか。 しかし 『………………統帥』 アキヒトの声が震えている。 変だ。 アキヒトならば、操縦基盤のエラーくらいで、こんなにも(おび)える筈がない。 ハッして息を飲んだ。 (アキヒトの言う『感応性がおかしい』とは……) まさかッ! 《憾》を取り囲む、黒い機影 《タンホイザー》の群れ 統帥……と無線の向こうで彼が呼ぶ。 まるで、すがるかのような細い声で…… 『……《タンホイザー》に乗っているのは、Ω型βですッ』

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