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Ⅱ【ローエングリン】 第7話
なにを考えてるんだ!
αはッ
《タンホイザー》はα専用機
βを機乗させるなどあり得ない。
(感応性のない機体に乗る事が、肉体と精神にどれだけ負担がかかるか分かってんのかッ)
まともに操縦できる訳がない。
自殺行為だ。
最初から、捨て石にする気だったのか。
Ω型βを
おそらく……
《タンホイザー》に機乗するΩ型βは、アキヒトと同じ経験を持っている。
……Ω型転換の被検体だ。
現在では法律で全面禁止されているが。数年前までは合法化されていた、第2性転換。
アキヒトのように、何らかの事情を持ったβが、実験段階の医療行為の犠牲になった。
そして。
言いくるめられたのだろう。
αにッ
第2性転換の施術を受けたβは、臨床試験の途上。もしくは法律で第2性転換が禁止された後、薬を抜く際に、放精機能を失った者が多いと聞く。
生殖機能が残ったアキヒトの事例が、特殊なのだ。
Ωになれず、βにも戻れなかった体を……
(α共は利用した)
βの生殖機能を取り戻す……とでも約束したのだろう。
この戦争に協力し《タンホイザー》に乗って、Ωを落とせば、
元の体に戻す、と。
できもしない約束をして。
嘘をつく誠実な顔の裏で、ほくそ笑む……
無茶苦茶にしておいて。
「どこまで腐ってんだッ!!お前たちはァァァーッ!!」
柘榴の四枚羽が回転する。
ビームが《タンホイザー》のサーベルを砕く。
だが。《タンホイザー》は攻撃をやめない。
死んだら終わりだから……
元のβに戻るという幻想すら、死ねば終 える。
生きれば、幻想の虚構に気づき、絶望するだろうに。
虚構に手を伸ばし、生きるために戦う。
「アキヒト!」
卓越したパイロットセンスが《タンホイザー》の感応性に気づいてしまった。
同じΩ型βが、俺には分からない何かを嗅ぎつけたのか。
《憾》の動きが鈍い。
(お前の気持ちは分かる)
だが、アキヒト。
落とさなければ、落とされるぞ!
死に物狂いで活路を切り開く意志に打ち勝てるのは『生』への執着だけだ。
中途半端な情けは、己が死を招く。
(ここは戦場なんだ)
「アキヒト、投降を呼びかけろ」
応じてくれればいいが。
同じβのアキヒトならば……と、微かな希望を抱く。
「俺たちの敵はαだ。βに危害は加えない」
……ツッ
暫(しば)しの沈黙の後、無線が光った。
『ダメですッ。ノイズが邪魔して通信できません』
先手を打たれた。
こうした事態を想定し、αの無能が予(あらかじ)め通信を《タンホイザー》だけ繋がるよう細工したのだ。
裏切りを防ぐために。
グォオンッ
黒い機影が火花を上げた。
エンジンが不協和音を奏でる。
前後左右
六体の《タンホイザー》に《憾》が囲まれた。
「なにをしている!アキヒトッ」
無線に怒鳴る。
「落とせ!落とさなければ死ぬぞ!」
俺の声を聞け!
お前は俺の騎士 !
俺の剣 だろう!!
《憾》が動かない。
クソッ
「俺たちは、こんな事のために戦争してるんじゃないんだァァァアーッ!!」
柘榴の羽が光を放つ。
光が装甲を貫く。
黒い鎧を撃ち抜く。
ある機体は、胴を
ある機体は、胸を
ある機体は、腰と頭を
脚を、腕を、首を、肩を、心臓を
撃ち抜かれて、《タンホイザー》が墜 ちていく………
………………俺たちは、
なんのために殺し合っているんだ……………
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