27 / 288

Ⅱ【ローエングリン】 第9話

速い。 レーダーの機影が一直線に向かってくる。 このタイミングで戦闘に介入するのだ。指揮官のジェネラルだと考えて、間違いない。 (狙いはなんだ?) 敗戦確実な戦闘に介入する意味は? この戦況をひっくり返す手立てを持っているのか? 否。そんな事は、どうでもいい。 Ω型βを(オトリ)にする作戦など、詮索する価値もない。 (落としてやる) 来い! お前を落として、無意味な戦いを終わらせる。 レーダーのアラートが鳴る。 ジェネラル接近を報せる警報だ。 (……なにィッ) 「なぜだッ」 見えない。 レーダーの機影は1キロ圏内まで接近しているのだぞ。 なのに。 「なぜ見えない!」 空には、影かたちすらない。 ジェネラルはどこだ。 『統帥ッ』 アキヒトから通信が入る。 バンッ レーダーを叩いた。 「どういう事だッ」 機影が《荒城弐式》を通り過ぎただと? 目視できない。 そんな事がある筈ない。 だが、現実にαジェネラルは現れていない。 レーダーに機影は映っているのに、目視できないまま俺たちを通り過ぎた。 αは、人間の網膜に映らないステルス機能を搭載したジェネラルを開発したのか。 (違う) 「………琵琶湖だ!」 近畿の水がめと呼ばれる琵琶湖は、京阪神地域に工業用水・農業用水・飲料水を供給している。 この大地の下には、編み目状に水路が張り巡らされている。 巨大迷路のような地下水路だとはいっても、ジェネラルが通るには狭い。 水路を壊して進んでいるのか! 目視できないまま、俺たちを通り過ぎた事にも合点がいく。 (αジェネラルは地下だ) 「後ろだ!」 背後の湖が……… ゴゴゴゴゴォォォー 黒いうめきを轟かせた。 「出るぞ!」 ザッブアアァァーンッ!! 水柱が天を穿つ。 ツッ 無線を押す。 「本隊副隊長、背後より奇襲。対角線上前後2部隊 同時攻撃に切り替えろ。 案ずるな。 車懸かりの陣は挟撃にも耐えられる」 『了解』 プツ………… 無線が途絶えた。 光が 刹那の光が駆け抜けた………だけだった。 水柱が割れた。 Ω車懸かりの陣 後方部隊が壊滅していた……… (なにが……起こった) 俺の指示よりも早く。 あの一瞬で間合いを詰めただと? 月から雨が滴り落ちる。 湖が噴き上げた水柱の名残だ。 ギラン 白刃が光る。 横一線、薙ぎ払うと同時、Ωジェネラル《荒磯(アライソ)》が砕けた。 「本隊・零番隊、回避!」 間に合わない。 スピードがΩジェネラルよりも上回っている。《捌里(ハチリ)》がやられた。袈裟懸(けさが)けに斬られ、脚と腕が爆発する。 「そのジェネラルを相手にするな!」 《荒磯》、《捌里》では歯が立たない。 パワーもスピードも。 Ωジェネラルを超えている。 ……なんなんだ、あの新型は。 パネルを叩く。 呼び寄せた柘榴の羽を装着した。 羽が赤褐色に燃える。 飛行モード全開 「離れろ!《捌里》ッ」 距離をとる間もなく《捌里》の胴が離れた。新型αジェネラルが一刀両断に斬り伏す。 柘榴の羽が火を噴く。 ビームサーベルを抜いた。 バチバチバチバチィーッ! 赤い剣と、白い刀 二振りのサーベルが火花を散らす。 白い機体のα新型ジェネラル 装甲の水滴が蒸発し、真っ白い霧が月光に燃えた。 剣が重い。 バキィッ!! 《荒城弐式》の腕が折れた。 「なんなんだァァーッ、この化け物はァァアーッ!!」

ともだちにシェアしよう!