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Ⅱ【ローエングリン】 第10話

パチッ、パチパチッ 火花がスパークする。 数本のコードで辛うじて繋がっている右腕は、もう動かない。 「クッ」 敵の性能を甘く見た。 わずかでも角度が違っていたら、真っ二つだった。 左腕を突き出す。 ガトリングを撃ち鳴らし、α新型との距離をとる。 (右腕は持ってかれたが、しかし) Ω本隊の損失は最小限に食い止めた。 α新型の注意は、俺に向いている。 俺を落とさなければ、本隊へ攻撃できない事は理解したか。 高性能の新型ジェネラルに乗っているのだ。α軍指揮官と見て間違いない。 なにが目的で、今更のこのこ出てきたのか知らないが。 (お前は落ちる) 《荒城弐式》がお前を落とす。 柘榴の羽が開く。 グオンッ 目の前に白い機影が迫った。 (速い) 白刃を紙一重でかわし、ガトリングを撃つ。装甲を貫けない。 (防御も厚いッ) 距離をとらねば。 《荒城弐式》は中距離戦闘機。 接近戦は不向きだ。 対するα新型は、接近戦型戦闘ジェネラルだ。 (《憾》と同じタイプだな) 分かっているのは、これだけだ。 どんな性能があるのか。データがない。 ゆえに尚の事、敵の得意とする接近戦は避けたい。 距離を図るが、スピードに押し切られる。 《荒城弐式》は中距離戦闘用ジェネラルだ。 距離をとらねば性能を発揮しない。 (これでは《盃ノ陰》が撃てない) ………そうか。 地上スレスレに機体を飛ばす。《荒城弐式》が急旋回した。 (琵琶湖だ) 追ってきたα新型が白刃を振り上げた。 「来い!」 αジェネラルが白刃を振り下ろす。 (かかった!) ここは琵琶湖上空 それも、湖面スレスレの…… 《荒城弐式》がかわす。 振り下ろされた白刃は、湖面を叩いた。 それでいい。 (お前は、俺の策にハマった!) 湖面に水柱が湧き立った。 水の幕がジェネラルの姿を隠す。 (さながら水遁(すいとん)の術とでもいったところか) 水の幕はすぐに晴れる。 しかし、これも計算の内だ。 一瞬隠れれば、それでいい。 距離はとれた。 柘榴の四枚羽を切り離す。 「《盃ノ陰》発動」 輝く柘榴の翼が灼熱を帯びる。 水を浴びた物質は、電気が通りやすくなる。 琵琶湖の水を大量に浴びた、お前のジェネラルの電気抵抗率は下がった。 焼け焦げろよ。 紅く注がれる光の美酒に飲まれてな。 「《盃ノ陰》発射!」 光が軌跡を描く。 轟雷(ごうらい)となり、落ちろ。 αよ、朽ちろ! ……………………刹那。 α新型の装甲が照り輝いた。 光が届かない。 否、光は確かに貫いた。 だが。 白い機体が、黄金に輝いた瞬間 「ビームを跳ね返したッ」 《盃ノ陰》の光が、遥か空。上空の半月に向かって飛び、掻き消えた。 (どうなっているッ) あの新型、一体なんなんだ。 装甲から黄金が消えた、白い機体が飛ぶ。 白刃が迫る。 (しまった) とられる! 白光(びゃっこう)(きら)めいた……時。 真紅の光弾が、夜陰を穿った。 蒼いビームサーベルが、白刃を止める。 『統帥、離れてください』 「アキヒト!」 『俺は、あなたの(つるぎ)です』 これくらい、止めてみせる! 左手のビームサーベルサーベルが、刃を()し折る。 グァシュゥゥーッ 右手に構えたサーベルの蒼い光が、α新型の右肩を貫いた。

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