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Ⅱ【ローエングリン】 第14話

飛ぶ。 俺のジェネラル《荒城弐式》が空を駆る。 (《荒城弐式》は中距離戦闘仕様だ) そんな事は分かっている。 接近戦に特化したα新型とは、明らかに分が悪い。 だが。 (関係ない) 危険は承知の上だ。 「卑怯な真似をォォーッ」 アキヒトを人質にして、Ω解放軍に攻撃を仕掛ける気か。 アキヒトを 《憾》を爆破しなかったのは、この策のためか。 そんな事はさせない! チャンスは一度 《荒城弐式》で隙をつくる。 一瞬でいい 一瞬の隙さえつくれば、アキヒトならば逃げられる。 そのための攻撃だ。 アキヒトも、Ω解放軍も (貴様にはやらん!) Ω解放軍も アキヒトの命も渡さん。 (貴様などに!) 「貴様にくれてやるのは、死だァァァーッ!!」 もう一振りのビームサーベルを抜いた。 ビームを反射する黄金の装甲がある以上《盃ノ陰》は使えない。 だったら! 「断ち切ってやる!」 この剣で鎖を断つ。 一瞬の隙が生まれれば《憾》のエンジンを全出力で噴射して、アキヒトが逃げられる。 恐らく、αは報復を仕掛けてくる。 鎖か 小刀か それとも、もう一振りビームサーベルを持っているか…… なんでもいい。 返す刀は俺が受ける。 (この機体で、一撃を止める) ………そこに、もう一度、隙が生まれる。 (後は分かるな、アキヒト) お前の剣で、αを斬れ αを落とせ!! 「やめてくださいッ!!」 瞬時にアキヒトは理解した。 「統帥ッ!!」 無線のボタンを叩く。 通信が繋がらない。 「統帥ッ!!」 それでも叫ぶ。 届かないと分かっていても。 (止めなければ) 俺があなたを (止めなければッ) 「あなたを犠牲にする勝利なんて、あり得ない」 俺はあなたの騎士(ナイト)だから…… (あなたの考えている事が分かります) だから (あなたの気持ちを踏みにじる) あなたの策は、俺が潰す。 「統帥、ごめんなさい」 操作パネルを弾いた。 (いける) 脚に絡まる鎖は完全ではない。 逃走を図るまでには至らないが、わずかだが脚が動く。 ビームサーベルが光った。 一直線に《荒城弐式》が突っ込んでくる。 チャンスは一度 たった一瞬 「動いてくれ!!」 《憾》 右脚が鎖を蹴った。 楕円を描いた鎖の先端が《荒城弐式》を直撃する。 大したダメージも与えられない攻撃だ。 普通ならば……… ガガガァアッ 《荒城弐式》がバランスを逸した。 狙い通りだ。 (統帥の策は、ここまでです) ガガガァアッ 「なにっ」 機体が傾いた。 鎖が、右腕を直撃した。 先刻の戦闘で、α新型に砕かれかけた右腕を。 数本のコードで辛うじて繋がっている腕だ。 再び火花を上げてショートする。 (安全装置が働いている) 墜落から、パイロットの命を守るために。 パイロットの意志とは無関係に、ジェネラルの機能が発動している。 攻撃よりも、機体の平衡を維持し自動飛行する安全装置だ。 破損した右腕をわざと狙って、鎖をぶつけたのは、 紛れもない アキヒト サーベルが虚空を斬った…… (なぜだっ) どうして 「お前が邪魔をするんだァァァァーッ!!」

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