33 / 288

Ⅱ【ローエングリン】 第15話

サーベルは届かなかった。 (唯一のチャンスを、俺は失った) どうしてっ。 アキヒトが邪魔をッ。 ……否。 アキヒトであるがゆえに。 作戦を理解した上であんな行動に出る事を予想できなかった、俺のミスだ。 (どうすればいい?) 刀を引く事はできない。 しかし、進む事もできなくなった。 手詰まりだ。 ………………ツッ その時だった。無線のランプが光ったのは。 (アキヒト?) 否。 α新型は黄金の装甲のままだ。アキヒトとの通信は絶たれている。 (では、一体……) 誰だ? …………………………まさか。 声は 俺の予想の範疇 そして、最も聞きたくない声だった。 『この通信は君にのみ繋いでいる』 α新型ジェネラルからだ。 『聞こえたら応答願いたい』 Ω解放軍 統帥 銀の叛逆者(シルバーリベリオン) 「お前がα指揮官か」 応える言葉を慎重に選ぶ。 アキヒトの命は敵の手中だ。 『私は指揮官ではない』 (なんだと) この戦いを指揮している人間は別の場所にいる。 だが。そんな機密情報を俺に教えて、こいつは何を考えている? 『しかし、この戦闘に関してはある程度の権限を持っている。 シルバーリベリオン、自軍に停戦を命じてほしい。我々も停戦する意志がある。その上で貴公と話がしたい』 今更なにをッ。 「αに話す事はない」 『こちらにΩジェネラルがある事を忘れるな』 クソッ、卑怯な。 アキヒトの命を盾に交渉するとは。 「……分かった。停戦を命じる。通信を繋ぎたい。黄金の装甲を解け」 『了解した』 無線ボタンを弾き、生存信号を確認する。機体に損傷は受けたが、本隊副隊長は無事だ。 信号を繋ぎ、一時停戦の命令を伝える。 ほぼ同時にα軍の攻撃も止まった。 (今のところ、約束は守るようだな) 「次はどうすればいい」 ガランッ けたたましい金属音が夜陰に響いた。 (奴は) なにを考えているっ。 鎖が湖水に落下して、水柱が跳ねる。 白い機影が真紅の機体を蹴って…… (《憾》を解放した、だと?) 《憾》を束縛する鎖はない。 余りにも一瞬の出来事に、アキヒトすら反応できない。 敵のジェネラルに背を向けたままだ。 「どういう事だッ」 《憾》を捕らえたのは、優位に交渉を進めるためではないのか。 ツッ 通信ランプが光った。 『シルバーリベリオン』 グァウアアァァァー ハッチを開く音が響く。 馬鹿な! コックピットを解放しただと。 これでは狙い撃てと言っているようなものだ。 ツッ 『出てきてほしい』 無線のランプが揺れ蠢いた。 『君に投降を勧告する』

ともだちにシェアしよう!