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Ⅱ【ローエングリン】 第16話

手段は選ばない。 選ぶのは強者の(おご)りだ。 どんな策も、ありとあらゆる謀略を使って勝ってきた。 勝ち続けなければ死ぬからだ。 だから手段は選ばない。 だが、それでも。 戦争という命を賭けた盤上で、最低限のルールは守ってきたつもりだ。 αは全員殺すが、無差別テロはしていない。 敬意……と呼べるものでは到底ないが、戦争という殺人行為には大義名分という偽善の規律が存在し、大義名分を維持するために守らねばならないルールがある。 α…… お前はルールを根底から覆すつもりか。 (投降だと) お前たちが滅茶苦茶にした世界に屈しろと…… それを俺に望むのか。 冗談じゃない。 大義名分を潰させるかよ。 俺たちの戦争を支える規律だ。 恨み、悲しみ、憎む心を、お前たちに支えられるか。 虐げられ続け、感情さえ殺され続けたΩの思いが、この戦争だ。 悲しい事かも知れない。 しかし、戦う事で俺たちは感情を取り戻した。 感情を、戦争という形で表現できた。 この戦いを潰す事は、俺たちの気持ちを殺す事にほかならない。 「投降はしない」 無線の光に(こたえ)を出す。 『《ローエングリン》』 無線が光る。 『α-大日本防衛軍 最新鋭ジェネラルだ。量産は難しい。操作も複雑で、今は私しか操縦できない』 しかし、いずれ流れは変わる。 『《ローエングリン》の量産に成功すれば、これまで通りにはいかなくなるぞ。 この戦争は……』 泥沼だ。 「……俺たちにも《憾》がある」 性能で劣る事はない。 α新型と同じで、量産はできないが。 だが…… 今後、《憾》と《ローエングリン》 二つの新型が量産可能になり、正面からぶつかる事になれば、それこそ…… (泥沼は避けられない) 《憾》も《ローエングリン》も、全くの互角。 ニ機の攻撃力は《タンホイザー》や《荒磯》《捌里》を遥かに凌駕する。 戦いはジェネラル開発戦争となり、最新鋭のジェネラルの底知れぬ火力で、多くの人命が失われる事となるだろう。 だからといって! (俺たちに、元の世界へ戻れというのかッ) 虐げられた世界の檻の中に 「…………α」 淡く輝く通信ランプに声を落とす。 「諦めろ。お前は、俺を納得させられる交渉材料を持っていない」 交渉は決裂だ。 通信切断スイッチに指が触れた、時…… 『………ならば』 ランプが光った。 『αではなく、『俺』としてなら会ってくれるか』 ナツキ 通信ボタンの上で指が震えた。 「ナツキ、俺だよ」 (こえ)が、聞こえる。 「ナツキを迎えにきた」

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