34 / 288
Ⅱ【ローエングリン】 第16話
手段は選ばない。
選ぶのは強者の驕 りだ。
どんな策も、ありとあらゆる謀略を使って勝ってきた。
勝ち続けなければ死ぬからだ。
だから手段は選ばない。
だが、それでも。
戦争という命を賭けた盤上で、最低限のルールは守ってきたつもりだ。
αは全員殺すが、無差別テロはしていない。
敬意……と呼べるものでは到底ないが、戦争という殺人行為には大義名分という偽善の規律が存在し、大義名分を維持するために守らねばならないルールがある。
α……
お前はルールを根底から覆すつもりか。
(投降だと)
お前たちが滅茶苦茶にした世界に屈しろと……
それを俺に望むのか。
冗談じゃない。
大義名分を潰させるかよ。
俺たちの戦争を支える規律だ。
恨み、悲しみ、憎む心を、お前たちに支えられるか。
虐げられ続け、感情さえ殺され続けたΩの思いが、この戦争だ。
悲しい事かも知れない。
しかし、戦う事で俺たちは感情を取り戻した。
感情を、戦争という形で表現できた。
この戦いを潰す事は、俺たちの気持ちを殺す事にほかならない。
「投降はしない」
無線の光に解 を出す。
『《ローエングリン》』
無線が光る。
『α-大日本防衛軍 最新鋭ジェネラルだ。量産は難しい。操作も複雑で、今は私しか操縦できない』
しかし、いずれ流れは変わる。
『《ローエングリン》の量産に成功すれば、これまで通りにはいかなくなるぞ。
この戦争は……』
泥沼だ。
「……俺たちにも《憾》がある」
性能で劣る事はない。
α新型と同じで、量産はできないが。
だが……
今後、《憾》と《ローエングリン》
二つの新型が量産可能になり、正面からぶつかる事になれば、それこそ……
(泥沼は避けられない)
《憾》も《ローエングリン》も、全くの互角。
ニ機の攻撃力は《タンホイザー》や《荒磯》《捌里》を遥かに凌駕する。
戦いはジェネラル開発戦争となり、最新鋭のジェネラルの底知れぬ火力で、多くの人命が失われる事となるだろう。
だからといって!
(俺たちに、元の世界へ戻れというのかッ)
虐げられた世界の檻の中に
「…………α」
淡く輝く通信ランプに声を落とす。
「諦めろ。お前は、俺を納得させられる交渉材料を持っていない」
交渉は決裂だ。
通信切断スイッチに指が触れた、時……
『………ならば』
ランプが光った。
『αではなく、『俺』としてなら会ってくれるか』
ナツキ
通信ボタンの上で指が震えた。
「ナツキ、俺だよ」
聲 が、聞こえる。
「ナツキを迎えにきた」
ともだちにシェアしよう!