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Ⅲ【トリスタン】 第10話
「まだそんな事を言ってるのか」
眉をひそめたユキトを、俺は責められない。
ユキトに心配をかけている自覚はある。
「でもっ」
「こんな体になって抑制剤は飲ませられない。ヌくしかないんだよ、ナツキ」
「でもぉッ」
緩く首を振る。
俺の股間を愛しく撫でてくれるユキトの手を、そぅっと止めた。
「こんな状態で…交わりたくない」
潤んだ目で見上げると、根負けしたように瞳の奥、ユキトが笑った。
「ナツキには、かなわないな」
小さな溜め息を吐いた。
「理性のある時に次は申し込むから。答え、考えておいて」
「仕方ありませんね」
吐息がうなじを伝った。
背中のアキヒトが睫毛を伏せる。
「無理強いして統帥に口きいてもらえなくなるの、イヤですから」
首筋と首筋
右と左
カプリと同時に、二人から痕をつけられた。
「………アキヒト」
「なんですか?統帥」
チュッ
わざと音を立てて首筋から唇を離す。
「あと……その……」
「なんですか?」
言いにくい。言いにくいけれど~。
「口でするのは……その」
前の膨らみを手と口で…よくする……って言ってたから。
「やめてくれな」
「脚下です」
言葉を最後まで待たずに、即答されてしまった。
「でも汚ないっ」
「汚ないわけないでしょう。統帥の体はどこもキレイですよ」
そんな……
「ナツキがちゃんとイッたら、抑制剤を飲ませる」
人差し指と中指の間。
青いカプセルをユキトが挟んでいる。
発情期の抑制剤だ。
「体の状態が落ち着けば、薬が効くかも知れない。……だが。
抑制剤の飲み過ぎで、抗体ができている可能性がある」
「抗体、が……」
「そう」
うなずくユキト。
つまり、それは……
「薬が効かないのか?」
「まだ分からない。飲んでみないと」
優しく……
少し汗ばんだ髪を撫でられた。
もし、抑制剤が効かなかったら……
「発情期が一週間続く……という事か?」
理性を失って、性行為に没頭するΩの発情期が。
「そうだよ」
小さく息を吐いたユキトの相貌は、どこか寂しそうでいて、艶めいていた。
「……そうなったら、ナツキを強姦する」
「ユキ…ト?」
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