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Ⅳ【捌里】第1話
「《荒城弐式》が砲撃されたッ、消火を急げ!」
ツッ
無線を《荒磯》に繋ぐ。
「零番隊隊長 テンカワ アキヒトだ。副隊長、応答願う」
『はっ』
「一番隊、五番隊、六番隊が op.3-7 三重県に進軍中だ。αに分断される恐れがある。
零番隊を貴殿の指揮下に入れる。全力で阻止してほしい」
『承知しました』
「助かる」
これで俺は……
スゴゴオォォーンッ
キャノン砲を下方に放った。
天高く、水柱が噴き上がる。
湖底から現る、宵闇色の機影
《捌里 》
《憾》の腕に抱いた人影が《捌里》のコックピットに乗り移った。
「来たか!」
雲に消えた月を追う蔭が、空を割った。
轟音に向けて、Ω-ジェネラル《荒城》・《荒磯》が一斉射撃を行う。
爆風が裂ける。
対空射撃を巧みに行い、空駈ける機影がミサイルをかわす。
赤い雲の真下
爆炎が映し出した機影は、白
α-ジェネラル《ローエングリン》
「零番隊隊長 テンカワ アキヒト《憾》、追撃を開始する」
グワンッ
翼がうなった。
「《捌里》、続け!」
『はい、隊長!』
濃紺の機影が空に昇る。
グオンッ
エンジンが火を噴く。橙色 が燃ゆ。
白い機体の放つ羽が、大きく湾曲した。
《ローエングリン》が南東の空に飛ぶ。
ツッ
通信ランプが光った。
《捌里》の無線だ。
『鈴鹿山脈を抜ける。青山高原を経て、伊勢平野を越えれば伊勢湾だ』
クスリ……と。
無線の向こうで、吐息が微かに笑んだ。
『参りましょう、隊長』
「仰せのままに」
《捌里》を従え《憾》が天空に咲く月花を散らした。
雲が流れて、背後に燃え立つ翼の彼方に消えていく。
《ローエングリン》の白い影を追う。
《トリスタン》投下阻止の布石はそろった。
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