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Ⅳ【捌里】第2話
ツッ
通信ランプが光った。
『無傷で伊勢湾に出られそうですね、統帥』
「アキヒト、呼び方を間違えているぞ」
『失礼しました……では、なんとお呼びしましょうか?』
「自分で考えろ」
《ローエングリン》砲撃
《荒城弐式》大破
Ω解放軍統帥 シルバーリベリオンが死んだ
俺は統帥 ヒダカ ナツキではない。
今《捌里》に機乗する俺は……
(この計画遂行のための駒だ)
《憾》と共に《ローエングリン》を追尾する。
表向きは、な。
レーダーで現在地を確認する。
op.3-7 三重県 α占領地領空だ。
いつ敵からの攻撃があってもおかしくない状況だが、レーダーに敵機の機影はない。
ユキトが上手くやってくれている。
α駐屯地の網目を潜って、俺達を誘導しているのだ。
伊勢湾には、空母が潜航している。
国際禁止兵器《トリスタン》を運ぶ、α-大日本解放軍 戦艦 マルク
ツッ
『ナツキ…さん』
「どうした?アキヒト」
『操縦に問題はありませんか?』
「あぁ」
その事か。
《捌里》はアキヒトが秘密裏に用意した機体である。
この計画は自軍にすら公にしていない。アキヒトのみが知る機密作戦だ。
急遽、準備した機体であるから、俺のパイロットデータはインプットされていない。
機体とパイロットの感応性を合わせる整備はなされていないが、《捌里》はΩ専用機なのが幸いしている。
「飛ぶ分には問題ない。大丈夫だ」
『安心しました。ここはα領空域です。敵の攻撃は俺が払いますので……』
通信ランプが淡く光っている。
「なんだ?アキヒト」
『………ナツキ…さんは、操縦に専念してください』
「ありがとう。しかし」
いま……
「変な間 がなかったか?」
『………』
通信ランプは光ったままだ。
『……緊張してます』
「お前がかっ」
まさか!
「俺は戦力にならないが、いざとなれば2、3機くらい撃ち落とせる。
作戦の指示は俺が出すから、安心しろ」
『いえっ、そうではなく』
「何を緊張している?お前は間違いなく、エースパイロットだ」
《トリスタン》阻止
アキヒトのようなセンスの高いパイロットであっても、この作戦はこれ程までに精神に不安を与えるのか。
推察が及ばなかった。
先読みに失敗するとは、俺の『統帥』としての力量を疑わざるを得ないな……
しかし。
計画は修正ができる。
俺が、アキヒトのサポートをできればっ。
………ツッ
通信ランプが瞬いた。
『そうじゃなくって!……ナツキ…さん』
まただ。
「また、変な間がなかったか?」
本当に大丈夫なのか、アキヒトは。
口ではあぁは言うものの、強がるところがある。
俺とアキヒト、二機だけで作戦を決行するところに問題があったのか。
『増援を呼ぼう。お前は、俺と二人きりだから不安なんだろう』
『違います!』
「では、なぜっ?」
『…………ナツキ…さん……』
通信ランプが光っている。
『あなたの名前を呼ぶの……ドキドキします』
「……………………えっ」
『ナツキ…さん……って、名前呼ぶのが、こんなに緊張するなんて……』
お前はっ。
《ローエングリン》の中で、あんな事まで俺にしといてっ!
…………たかが名前だぞ。
「………」
『………』
「………」
『………ナツキ…さんっ、何か言ってください』
通信ランプが光っている。
「……そういう事を言われると、俺も…意識してしまう」
『………………ぁ』
無線の向こう、小さく息を飲んだ声が聞こえた。
視界が開けた。
前方に明かりが灯る。
灯台の火だ。
「行くぞ、隊長」
『はい。お守りしますよ、ナツキ…さん』
海面を照らす白い火に、波が揺らめく。
黒い波の慟哭 が鳴っている。
伊勢湾が見えた。
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