60 / 288

Ⅳ【捌里】第3話

雨が降り出した。 追悼式の演出にしては出来すぎてやしないか? 死を悼んで、空が泣く。 ………違うだろう。 死を偽り、生き長らえる俺の道を、天が隠したのだ。 月にすら、この命が見つからぬように 地上から月明かりを奪った。 雲が雨を流して…… 「上出来だ」 モニターに打ちつける大粒の雨 外は土砂降りだ。 叩きつける夜半の雨音さえ…… ドゴオォォオォーンッ 爆音が掻き消す! …………合図の火の手が上がった。 一発目の砲撃は外す。 西の空へ向けて。 《ローエングリン》の弾跡が弧を描き、西の空……雨音の中に消えた。 闇に浮かぶ白の蔭 雨に濡れる機体 翼の火が燃える…… 「《ローエングリン》ーッ!!」 パネルを叩く。 エンジン解放 最大出力 ツッ 無線を弾いた。 「前に出る。隊長はお下がりください。 俺が《ローエングリン》を叩き落とす!」 サーベルを抜いた。 発光する青い刀身に雨が落ち、蒸気が上る。 ありがとう、アキヒト この一閃 《捌里》は《ローエングリン》に斬りかかり、そして………… 墜ちる 爆発する機体から《ローエングリン》によって救い出された俺は、α軍の捕虜になる。 そう…… (捕虜のΩとして、空母マルクに潜入するのだ) 後は任せろ。 《トリスタン》破壊準備ができたら、お前に連絡する。 右眼にそっと手を当てた。 緋色の眼を覆っているのは、白い布だ。 ハンカチを破って、アキヒトが巻いてくれた…… 感応性の合わないジェネラルで 《ローエングリン》を追尾し、伊勢湾まで飛行できたのは、俺の傍で俺を守ってくれたからだ。 お前がいてくれたから、ここまで来られた。 護衛をすまなかったな。 《捌里》の大破を見届けて、本隊に戻れ。 アキヒト Ω解放軍の頂きに立て お前が統帥だ。 俺が戻るまでの間、Ω解放軍を頼んだぞ。 「飛べェーッ!《捌里》!」

ともだちにシェアしよう!