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Ⅳ【捌里】第4話

光が駈ける。 突き刺した切っ先は、虚空に落ちた。 雨が……… 視界を奪った。 海水に怒号が上がる。水飛沫を高らかに噴き上げて、サーベルが水没する。 海の波が青い刀身を飲み込んだ。 バキバキバキィッ パネルの灯りが消えた。 一閃を弾いた《ローエングリン》の手が《捌里》の顔面を締め上げる。 カメラ破損 モニターを砕かれた。 外が見えない。 「……気遣いは無用だ、ユキト」 恐れるものか。 ………お前らしいよ。 機体の爆発で俺が怖がらないように《ローエングリン》は、モニターを破壊したのだろうが。 (俺は、信じているぞ) 爆発する《捌里》から、お前が俺を救い出してくれると。 「来い!」 《ローエングリン》!! 「この一太刀で、俺を斬れ」 ユキト……… バキィィンッ 火花の悲鳴は、しかし。 「なぜッ」 《捌里》に損傷はない。 レーダーを見る。 「アキヒトッ!」 どうしてだっ 「なぜ、お前が邪魔をするッ」 ガガガンッ 機体に衝撃が走った。 だが、これは。 俺の計画していたものじゃない。 爆風による衝撃だ。 なぜ爆発が起こった? ……ツッ 通信ランプが光った。 『統帥!作戦は中止です』 「なにを言っているッ」 ガガンッ なんだ、今の音は。 風圧で機体が(きし)んだ。 しかし! ここまで来て、止まる訳にいかない。 「作戦は続行だ」 『いけませんッ!』 騙されたんだ。 『αに騙されたんですよッ!』 なにを言っている……… ユキトが、俺を? 有り得ない。 「そんな事がある訳ないだろう!」 ガガガゴンッ 違和感を裏打ちする風圧が、機体を揺らす。 『俺達は砲撃されています』 「不可能だッ!」 Ω領有地で戦闘を行えば《ローエングリン》が、Ω解放軍に攻撃される。 α占領地で戦闘を行えば、俺達がα軍から攻撃を受ける。 俺が捕虜となる戦闘は、両軍の力が及ばぬ場所で行う必要がある。 だから、伊勢湾を選んだんだ。 海上ならば、戦闘への介入はできない。 ここでジェネラルの信号の電波を途切れさせて、敵に怪しまれずに捕虜になる。 この計画は、俺達三人しか知らない。 なぜ邪魔が入る? どうして邪魔できる? 『伊勢湾に、α空母マルクが浮上しました』 「そんなっ」 早い。 空母マルクは、まだこの海域には到達できない筈じゃなかったのか。 『砲撃は、マルクです!』 バンッ 通信パネルを叩く。 「違うっ!有り得ない……認めないッ!」 『現実なんですよッ!』 ……統帥、マルクの位置情報を俺達に教えたのは誰ですか? 『こんな事が可能な首謀者は、唯一人です!』 α-戦艦マルクの位置を知る事ができるのは、αのみ…… ユキト 『俺達をおびき寄せて、落とす気だったんです。あのαはッ! 最初っから、俺達を()めるのが目的だったんですよッ!』 パネルを叩く。 何度も、何度も 外は映らない。 真っ黒のモニター どうなっているッ 外はどうなっているんだッ 雨が打ちつけている。 爆風の中で。 雨だけが聞こえる。 ………………ユキトが裏切った。

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