71 / 288

Ⅳ【捌里】第13.5話 (おまけ+)

*《おまけ+》* -the field of vision by ユキト ♥- 「目が覚めた?おはよう」 俺の隣で、薄く瞼が開いた。 コックピットのパネルの明かりが眩しいのだろうか。 ……それとも、余韻に浸っているのかな。 (すみれ)の左目が宙を漂っている。 唇が動いて、小さく息を吸い込んだ。 声は出ない。 声帯を毒で麻痺させて、俺が声を奪ったから…… まだ少し、頬が上気している。 毒で体がだるいのか。 ………違うな。 思い出しているんだろう。 さっきまでの淫らな痴態を 菫が揺らいでいる。 眼差しを向けたら、そっぽを向かれて見事に拒絶されてしまった。 俺はナツキに、ひどい事をしたか? 可愛がってあげただけなのに。 ……運命のΩは、つれないな。 と、微笑んだ矢先 きゅっ、と。 背中越しに手を握られて、トクンっと鼓動が跳ねた。 俺のΩは、惑わせる。 心を平気で掻き回すんだ。 それが、たまらず愛しい。 チラリ 背を向けたまま、瞳だけ振り向く。 何か伝えたいのだろうか? ナツキが眠っている間に、体を拭いてきれいにした。 パイロットスーツも着せたし。 本音を言うと、着せたくなかったんだけどな…… ナツキの裸、眺めていたい。 けれども。そうしたら、俺の理性が持たない。 目覚めた時、ナツキもご機嫌ナナメだろうから。 目も合わせてくれないのでは、さすがに傷つく。 パイロットスーツは着せて正解だ。 身の回りは整えたし…… じゃあ、なんだろう? ナツキは何を伝えたいんだろうか。 「あ、危ないよっ」 起きようとして、ふらついたナツキの体を支えた。 「自動操縦で《ローエングリン》はもうすぐマルクに着艦する。それまでの間、寝ていた方がいい。 いっぱい腰振って、いっぱい出したんだから」 俺に咥えられて、あれだけ激しく腰振ったんだから。ガクガクして、力が入らないだろう? ……と、(いさ)めたのだけど。 キィっと睨まれてしまう。 気分を損ねる事を言っただろうか? 無理して、体を起こさない方がいいのに。 でも……… 握った手は離さない。 向かい合った菫の玲瓏が、ささめいた。 吐息が触れて…… 唇の形が、言の葉をつくる。 ご、め、ん……… 「どうして、ナツキが謝るの?」 うつむいた瞳をのぞき込むと、ナツキはますますうつむいてしまった。 顔が赤いのは気のせいじゃない。 「どこか苦しいのか」 プルプル、横に首を振る。 ナツキ、どうしたんだろう? 「えっ」 握った手の平を引っ掛かれた。 「ナツキ?」 手の平を指がなぞる。 引っ掛かれたと思ったが、違うらしい。 「……文字?」 指で文字を書いて、伝えようとしているのか。 「ごめん、ナツキ。もう一回」 わずかに逡巡(しゅんじゅん)した指が、再び手の平をなぞった。 ナツキの記す文字を、慎重に見極める。 「……に」 「……お」 「……い」 ……………………あっ! 「ナツキっ」 ここは、コックピット内 狭い上に、海中で換気できない。 だから。 自分の吐き出したミルクの臭いを、ナツキはずっと気にしていたのだ! ご、め、ん……… 耳まで真っ赤にして、唇が小さく動いた。 「全然気にしてないっ!」 あぁ、もうっ。 「ナツキってば、なんでこんなに可愛いんだよ!!」 ぎゅっと抱きしめて、キスをした。 菫の目が潤んで、ますます赤面している俺のΩ 魔性の可愛さなんだから。 触れた体温が熱い。 ドキドキ鼓動が加速する。 「着艦するまで離さないよ」 ビクンっ、と…… 震えた肩を見ない振りする。 ……嫌じゃないクセに。 こんなにも、俺を掻き乱すお前だから。 優しくしたいのに…… 俺は、意地悪してしまうんだ。

ともだちにシェアしよう!