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Ⅴ【マルク】第4話

今は昼か…… それとも夜か…… 視界は目隠しで塞がれている。 両手は、後ろ手にされて手錠で繋がれていた。 首の頑強な金属は、首輪か。 (αがッ) 時間感覚がないが、恐らく一時間前だ。 看守が食事を置いていった。 スープの匂いが冷えている…… (這いつくばって食べろというのかッ) 手錠はかけられたままだ。 犬のように、地べたに這いつくばってすすれ……と。 あいつらは俺達を家畜としか見ていないんだ! スープの冷えた匂いのせいで、頭がズキズキする。意識を奪った薬が、まだ抜けていないのだろう。 気がついたら、ここに放り込まれていた。 独房だ。 硬質の床から靴音が響く。 見廻りの看守の音で、我が身の置かれた大まかな状況は把握した。 独房は二重扉 一枚は自動扉だ。パスキーか暗証番号で開くようになっている。 自動扉を開けると、鉄格子が設置されている。 鍵は看守が持っている。 先程、食事を置いていった際に、錠を開ける音がした。 独房を解錠する時は、看守が二人以上いる。靴音が重なって聞こえたからな。 脱出口は鉄格子を破る以外ない。 看守の見廻り時のほかは、空気の流れが止まっている。 密閉された空間だ。 (絶望的だな) 目隠しされ、視覚を奪われた状態で脱獄は不可能だ。 俺は一度、逃亡を企てた。 どんな事があっても、この目隠しは外さないだろう。 身から出た錆 ……しかしっ。 なぜ、ユキトッ お前が邪魔をしたッ お前さえ邪魔しなければ、計画は遂行できた。 (《トリスタン》だって) 止められたかも知れない…… 信じていたのに 俺は、お前を信じて大丈夫なのか? ここはαの艦 (信じるも何も、頼る者はお前しかいない) 俺の命はユキトにかかっている。 お前に委ねたんだ。 一度渡したものを、取り戻そうとは思わない。 俺の取る選択肢は決まっている。 お前を信じている…… プシュゥー 自動扉が開いた。 独房に空気が流れる。 カツン、カツン…… 靴音が重ならない。 看守は一人。今までの足音の癖がない。交代したのか? カツン 靴音が止まった。 「立て、Ω」 この声! (ユキトっ) 「命令だ。立って、ここまで歩いて来い」 言われるがまま立ち上がり、声の方向ヘ歩を進める。 見えない上に、手を後ろで縛られているから、足元がおぼつかない。 「……止まれ」 冷ややかな声が、独房に響いた。 「跪け」 (俺が、ユキトにか?) 「早くしろ!」 (アゥッ) ガシャンッ 金属の切ない悲鳴と共に、足を払われた。 鉄格子の隙間から、ユキトが足を掛けてきたのだ。 バランスを崩し危うく鉄格子に直撃するところを、ユキトの腕に拾われる。 ユキトの体温なのに…… 冷たく感じた。 「お前が食事を摂っていないと聞いてな。わざわざ食べさせに来てやった」 冷えたスープの匂いがした……

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