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Ⅴ【マルク】第5話

「口を開けろ」 唇に押しつけられたのは、スープを浸したパンだった。 「命令だ。もっと大きく口を開け」 口の中に入れられたパンを頬張る。 「……そうだ。そうやって言う事を聞いていれば危害は与えない。 俺は、お前の飼い主だ」 ユキト…… 「お前は、俺に飼われている」 飼われる以外に、この艦で生きる道はない。 鉄格子越しに、与えられるパンを口に入れては頬張る。 口に入らなくて、噛み切ろうとして汁が垂れた。 無言の指が口の端を拭う。 今度は小さくちぎったパンを、舌の上に置かれた。 「慌てるな……そうやって、ゆっくりな。俺の与える物は、全て食べろ」 時々、水を飲ませながら、パンをスープで浸して口の中に置く。 パンにスープを含ませるのは、このまま食べるには固いからだと気づいた。 (……うっ、まただ) なにぶん視界を塞がれているため、口を閉じるタイミングが分からない。 パンを置くユキトの指を、舌と唇で時々ねぶってしまう。 (アっ) パンを食べるつもりが、噛んでしまった。 ユキトの指を 「動物は噛みつくものだ。手負いなら尚更な」 差し出してきた指に口づけると、血の味がした。 フッ……と 見えない視線が微笑んだ……気がした。 「お前が上手に食べないから、俺の手がベチョベチョだ。……拭けよ」 ………………ペチャ、ペチャペチャ 鉄格子から差し出された手を舐めるしか、ユキトをきれいにする術を知らない。 ペチャペチャ…ペチャ…… 独房の静謐(せいひつ)に、濡れた音を響かせる。 「ここも、まだ汚れているぞ?」 指の股に舌を添わせた。 チュウゥーっ……と、口腔を撫でてきた指を吸い上げる。 「どこで覚えた?卑猥な口だ」 首を振って否定するが、 「誰が休めと命じた。舌を動かせ」 グイッと後頭部を押さえつけられる。 ハァハアハァ 口内を蹂躙する指に舌を絡める。 息が上がって、口の端を唾液が伝う。 チュプチュプ、チャプチュプ 真っ暗な視界 水音が鼓膜を犯す。 「物欲しそうな顔して……指よりも、もっと太いモノが欲しいんだろう?」 (ヤっ) 反射的に舌を引っ込めたが、追いかける指がそれを許さない。 口腔を嬲られて、指が舌を絡めとる。 「命令だ。頷け」 (かぶり)を振って、抵抗するけれど…… 「お前は、指よりももっと太くて、いやらしい俺のモノを欲しがってるんだよ」 (ハウゥ~) つま先がっ ……緩くそそり立った下腹部のソレをなぞった。 なんで、俺…… 体が勝手にっ ……反応してる。 ハァハァハアッ (ユキトがっ) 変な事して、変な事を言うから。 ユキトのせいなのに。 ………ユキトが許してくれない。 「どうせ声が出ないんだ。……言えよ。口の形で」 俺に教えろ 3文字で 「いい機会じゃないか。 普段は、口にするのも(はばか)猥褻(ワイセツ)な言葉が言えるんだ。嬉しいだろう?」 冷たい指先が、俺の唇をなぞった。 「淫猥な口で言えよ」 指が、唇の端で止まった。 「動物には分からない?……そんな事はないだろう。雄の象徴の名前くらい知ってるな? お前の欲しいモノをいやらしく、おねだりして見せろ」 耳朶に吹きかけられた熱っぽい吐息に、体温が上昇する。 「四つん這いになって。俺に、恥ずかしい言葉で、恥ずかしい施しを請え。 ……上手くできたら、お前の卑猥なモノを優しく慰めてやるよ」 熱い舌がねっとりと、耳のひだを這う。

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