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Ⅴ【マルク】第21話

この暗闇はいつまで続くのだろう…… 目隠しされて、視覚を奪われ、時間の感覚を奪われた。 ユキトが出ていって、一時間たっただろうか。 それとも、もっと過ぎたのか。 今は深夜か。 それとも夜が明けたのか。 今は、いつだ? この時間がいつまで続くのか。 終わりなく、先が見えない。 ………………俺、ダメかもしれない……… 終わりのない闇が蝕んでいる。 不安に浸食される。 人は視覚を奪われると、こんなにも弱くなるものなのか…… ユキトは、どこにいるんだろう…… 不意に冷たい空気が押し寄せた。 カツン、カツン…… 自動扉が開いて、硬質の靴音が近づいてくる。 ………カツン 巡回の靴音が止まった。 ガシャン 独房の錠が開かれる。 (食事か?) 食べ物の匂いがしない。 錠を開ける時の看守は二人の筈だが、靴音は一人だ。 妙だ。 ギギギィー 金属音が軋む。 独房が開けられて…… カツン、カツン、カツン…… 靴音が聞こえる。 (どうしてッ) カツン、カツン…… 靴音が近くなる。 独房の中に、看守が入っている。 カツン、カツン…… 靴音が近づく。 なぜッ この中に看守が、一人で 尋常じゃない。 (逃げなければッ!) まわり込んで、開いた独房の扉から脱出するか。 無理だ。 ここを出ても、自動扉が閉まっている。 第一、目隠しで視覚が塞がれている。 方向すら分からない。 扉に向かって逃げたら、看守に捕まる。 (じゃあ、どこに逃げれば) ここは密室だ。 近寄る靴音に、あっという間に壁際に追い込まれた。 助けてくれっ 助けて、ユキトッ!! 間近に看守が迫る。 生あたたかい息が頬に落ちる。 (怖いっ………助けて!) ユキト、助けてッ!! 一か八か 床を蹴って、看守の横を潜り抜けて脱出を試みる……がっ。 (アゥっ) 恐怖で震える膝が床を滑って、屈強な腕に体躯を引きずり込まれた。 押し倒されて、看守の腕が体を抱きしめる。 この腕……………… 転んだ俺が痛くないように、抱き止めた。 俺をかばった? 看守が?……………… この腕は……………… 熱く、逞しい、この腕は……………… 看守じゃない。 首元に顔を埋めている。 ふわり……と香った優しさにくすぐられた記憶が、温もりを包む。 あたたかな体温が、俺の体を包んでいる。 ユキト……………… お前は、ユキト………なのか? 「………………俺は」 やっぱりユキトだ。この声は。 でも、どうして? お前は、今にも泣きそうな声をしてるんだ…… 「もっと早くに、選択すべきだったんだ……」 ユキト? 「俺は甘かった。待てばいつか、ナツキが俺を選んでくれて。 戦争が終わったら、二人で暮らせるんだと……勝手に思い込んでいた」 でも、それはナツキの選択肢で。 俺の選択肢じゃない。 俺は、自分で何も選んでいない。 俺は……… お前を傷つけた。 過去に、取り返しのつかない過ちをお前に犯した。 だから、俺はもう……… 懺悔の心が失せてしまったんだ。 「ナツキ……お前を犯すよ」 (ユキ…ト?………) 「戦争を終わらせる方法を、俺は知っている」 それは、とても単純なんだ。 「子供を作ろう」 単純な公式だったよ…… 「俺とお前との間に子供が生まれたら、お前はもう戦えない」 ナツキは優しいから 自分の子の父親を殺せないだろ? 「ナツキを犯して、子供を作るよ……」 懺悔の檻の囚われ人に、俺はなった。 檻の中は、ナツキもいっしょだ………

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