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Ⅴ【マルク】第22話

「三人で暮らそう」 俺とナツキと…… 「生まれてくる俺達の子の、三人で……」 労るように、そっと…… 優しい手つきで、俺の腹をユキトが撫でる。 (どうしたんだッ) あいつに連れてかれてから変だぞ。 (あいつに何を吹き込まれた?) あの男は、とうとう弟の思考までも手玉に取ったのか。 シキ ハルオミ 間違っているぞ! 弟の思考まで利用するなんてッ (ユキト、目を覚ませ) お前の想いを乗っ取られちゃダメだ! お前は、あの男に思考を奪われているんだ。 黒の支配者(シュヴァルツ カイザー)の呪縛にかかっているんだよ! どうすれば、お前はお前自身を取り戻せる? 自由を奪われた俺に、なにができる? お前を蹴り飛ばせば、お前が戻るか? お前に噛みついたら、お前が戻るか? お前から逃げたら、お前が戻るか? 俺はッ ……………………震えているお前を置いて、どこにも行けないよ……… 「最低だな、俺は……」 吐き出した息が震えている。 ひどく途切れ途切れに割れた声が、髪に落ちた。 「子供の命を盾にして……」 温もりをたぐり寄せるように。 腕が俺を抱きしめている。 俺は……どこにも行かないのに…… 「最低の父親になるんだ。子供でお前を繋ぎ止めて……戦争を終わらせるためだと、最もらしい理由をつけて。 子供を利用する、最低の父親になるんだ……」 俺は……ユキト、お前が突然そんなふうに考えるようになったのは、ハルオミに何か吹き込まれたからだと。 そう思った。 でも。 今のお前が、ほんとうのお前なのか? 包み隠さない本心を、俺に語ってくれたのか? ………そうじゃなきゃ、お前はこんなにも臆病にならないだろ。 お前は怖がっている。 降りしきる雨の中で、帰る場所のない猫のように。 ずぶ濡れで。 俺に怯えている。 俺が手を差し出しても、 手を差し出さなくても、 怖いんだね…… 見捨てられる事と、 いま見捨てられなくても、いつか見離される恐怖が、お前を苦しめているんだろう。 俺の手を、お前はどこまで信じてくれるんだ? 俺はどんなふうに、お前に手を伸ばしたらいいんだ? 俺は………ユキト、お前の手を握りたい。 でも………………握ったら、お前をもっと苦しめてしまうんじゃないのか。 俺はどうしたらいい? (子供は作れない……) 俺は、Ω解放軍 統帥だ。 裏切れない。 解放軍の皆を。 信じる人達を裏切れない。 アキヒトが待っているんだ……… ごめん 息だけで。耳元に、そう……… 訣別した。 けれど。 本心で向き合ってくれて、ありがとう…… 戦争は止められない。 俺達は結ばれない。 αとΩ、だから………… さようなら 別れを告げた唇は、冷たいユキトの唇に吸われた。 「…………俺は、諦めたよ」 まるで詰め物でもしたかのような。 肺から絞り出した声が、鼓膜を刺した。 背中に床が当たっている。 ……ユキトに押し倒されているのか。 俺はきっと、見えない視覚に映った色のないダイヤの瞳に射貫かれて。睫毛が触れるほど、間近に迫った双眸の向こうの天井を眺めてるんだ。 「ナツキの心は、諦めたよ」 息が熱い。 心臓を止めてしまう。 冷たくて、熱い。 メタンハイドレートの蒼い火に焼かれているようだ。 「ナツキの体だけを、俺のものにする」 それが、お前の覚悟なのか……… ユキト………

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