102 / 288

Ⅴ【マルク】第25話

あたたかい…… 心臓がトクトク……語っている。 無言の時間を 鼓動が時を刻んでいる。 ユキトの胸の中は、あたたかいよ…… お前は、どうしても俺の体が欲しいのだろう。 俺とユキトの子を産ませたいんだもんな。 体さえあれば、子供を産む事は不可能じゃない。 でも、そうしたら……… 心はどこに行けばいいのだろう。 お前が心を抱きしめてくれなければ、俺は心の居場所を無くしてしまうんだよ。 体よりも、心が欲しい。 俺達は矛盾しているな……… 逆方向を向いてしまったベクトルは、もう交わらないのかも知れない。 俺が抱きしめているのは、手からこぼれていく温もりだ……… 「………………ごめんな」 絞り出した低い声音に、鼓膜が震えた。 聞かせてくれたその声は、俺の一番聞きたくない謝罪だった。 それでも必死に手繰り寄せてくれる。 ユキトの腕が、俺の体温を。 俺は、ここだよ。 ここにいる。 ここに、心があるんだ。 とても、とても近くにいるのに、手を伸ばしてくれない。 伸ばせば触れられる距離なのに。 その手は、心を拒絶する。 俺を抱きしめてくれた腕は温かいのに。 心が冷えていく。 辛くはない。 ユキトがここにいてくれるから。 …………………………だけど (俺は要らない) そう語りかける心臓の鼓動が、寂しいよ……… 拒絶された気持ち 俺はユキトに捨てられたんだ。 「俺の部屋に行こう」 指が髪を()いた。 「ごめんね。ナツキは『初めて』なのに。こんな所で『初めて』を奪われるのは嫌だよな」 掌があやすように、何度も何度も髪を撫でる。 「ベッドでちゃんとシよう。体を繋ごう」 ユキトは、俺の体の飼い主になるんだ…… 「一つだけ、約束してほしい。ナツキはもう……」 耳朶に噛みついた唇が、絞り出した悲痛 「あの騎士の事は忘れるんだ」

ともだちにシェアしよう!