109 / 288
Ⅴ【マルク】第29話
ユキ…ト……
天井と俺の間に、ユキトが見える。
体勢を入れ替えられて、俺……ユキトに押し倒されている。
両手は頭上で一くくりに、ベッドに縫いつけられている。
ユキトの左手が両手首を押さえて、もう片方の右手がつぅっと脇から胸を撫でた。
くすぐったい。
唇を噛んで、顔を背けたけれど。
「ちゃんと俺を見て」
顎を持ち上げられて、鎖骨に唇を落とされた。
「ナツキが好き。俺を見て。……俺だけを見てほしいんだ」
右目の……アキヒトが巻いてくれた包帯代わりのハンカチが取り払われた。
右目の視力は、ほとんどない。
光を感じるくらいしかできないけれど。
彼岸花の色に染まった右目にさえ、己を映してほしいと、ユキトが願う。
「俺以外のものは、もう見るな。ほかの男も、戦争も」
右目の瞼にキスをする。
左目の瞼にも……
「身勝手な男の言い分だね……」
落ちた吐息が睫毛を掠めた。
「俺は、身勝手にナツキを愛して。ナツキを困らせて。ナツキに幻滅されて……
それでも愛する事をやめられない、自分勝手な男だ……」
強く、強く抱きしめられた。
「もうナツキを離したくないよ」
肩口に、ユキトが顔をうずめている。
「……俺を置いて行くな」
声が震えていた。
ユキトはずっと……
傷ついたガラス籠の中で、気持ちをずっと抑え込んで……
ガラスの破片が突き刺さったままでいるんだ……
破片を抜く事ができるのは、俺だけ
「…………子供を産んでくれ」
頬に、指先の冷たくなった手が添えられた。
「俺の子供を……ひとりだけでいいから」
冷えた指の先が頬を辿る。
「ナツキの体を、俺に頂戴……」
ブラックダイヤの双眼が揺れた。
黒百合の花びらのように……
「俺とナツキの子供がほしい」
ユキトはαだ
αとの子供は絶対に設けてはいけない
俺はΩ
Ω解放軍 統帥 銀の叛逆者
俺は、世界を敵にまわした
戦争の首謀者
俺は、世界の孤児なんだ…………
「……脚、開いて」
ブラックダイヤの瞳がささめいた。
「俺を受け入れてくれ」
子供はダメだ。
絶対つくっちゃいけない。
敵のαの子は絶対に……
………………なのに
膝が震えた。
ほんの少しだけ……ほんの数ミリだけ、膝が外に揺れた。
「セックスの格好、覚えてる?」
おずおずと、外に脚を開く。
「恥ずかしいよね。ナツキは男の子だから。こんな格好するのは。
でも、がんばって俺を受け入れてくれるナツキが大好きだよ」
立て膝した脚をいっぱい開いて、ユキトの体躯の下で性器が丸見えになっている。
震えた体を、ユキトの逞しい腕が包んだ。
「可愛い……ありがとう」
唇にキスされる。
触れるだけの優しいキス
「俺が、お前を汚すよ」
獰猛な唇が歯列を割る。
上顎も下顎も、歯の裏も、舌の裏も、舐められる。
舌と舌とが絡み合う。
長い長い口づけの後
濡れた唇をネットリ舌が舐め取って、ようやく離れた唇が、左目の瞼に落ちて視界を奪う。
「今夜、お前は処女を失う。綺麗な体は、俺の欲望に汚されるんだ」
ゴリっ……と
固く怒張した剛直が、股の間に押し当てられた。
「汚れるお前が愛しいよ……」
右手の甲に、そっと口づけを落とす……
ともだちにシェアしよう!