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Ⅴ【マルク】第35話

…………人智を超えている。 俺の知識がまるで役に立たない。 こんな事が現実に起こり得るとはッ 戦場において勝利を収めてきた俺の戦略は、常に相手の一手先をゆく事で勝算を量産してきた。 相手が動く前に動いて撹乱(かくらん)する。 時には油断を誘い、相手の勝利を匂わせておきながら、一気に畳み込み、敗北のドン底に突き落とす。 戦闘意欲を喪失させる心理戦こそが、俺の真骨頂だ。 なのにっ 心理戦が全く通じない。 俺の想定外の事ばかりが起こる。 経験値の不足は、知識によって補える。 それなのにっ シルバーリベリオンと呼ばれ(おそ)れられる、この俺が後手に回っている。 否 手足が出ない。……とでも言うべきか。 (対処法が分からない) 知識不足なのか? そんな事はない! Ω解放軍統帥 シルバーリベリオンになる前は、ちゃんと学校に通っていた。 保健体育の授業で習ったぞ。 (第二次性徴によって、性器は大きな変貌を遂げるのだ!) 生殖器の役割を得た陰………い、いん~………い、ん………………けー…を使って、せぃ………こぅ~………する。……と、教科書に書いてあった。 しかし (困ったな) 避妊具として『こんどーむ』の名前は記されていたが…… 陰……い、ん…けーに被せて使用する物らしい。 だが、装着方法までは記載されていなかった。 教科書!なぜ図解解説しないッ 俺はシルバーリベリオンだ。 一度見たものは全て暗記する。 図解さえ見ていれば、装着など容易にできるものを! あんな薄べったいペンペラペンの物を、どうやって被せればいいんだ? 逆にどうして、こんどーむは筒状になっていないんだ? 最初から筒状の形にしてくれていたならば、こんなに装着で思い悩む事もないではないか。 ……いや、筒は駄目だ。 俺とユキトがそうであるように。大きさや形状には個体差がある。 既にベッドに横たわっている状態で、フィッティングルームに駆け込む時間はない。 そもそも、なぜ、こんどーむなのだ? こんどーむに(こだわ)らずとも良いのではないか? 人類は常に進化してきた。 こんどーむという形への拘りは、人類の進化を止める悪しき潮流にほかならないのではなかろうか。 そうだ! 人類の進化を止めないためにも、俺はこんどーむ以外の道を歩むんだ。 この世界には、こんどーむを遥かに超える文明の利器が必ず存在する筈だ。 自分を信じ、人類を信じて、俺はこんどーむを超える文明の利器を探し求める。 絶対に、こんどーむを凌駕する物が、この世界には存在する。 …………………………サランラップがあるじゃないか。 そうだ! サランラップだ! あれならば、簡単に装着できる。 俺は、なんと身近な物を見落としていたんだ。 こんどーむに頼らずとも、サランラップで凌げるぞ!! サランラップは液体を通さない。 薄い! ………俺は天才だ。 ユキト、俺を畏れよ!! シルバーリベリオンを!! 「………サランラップを巻くぞ」 「…………………………え」 「聞こえなかったか、ユキト。今すぐサランラップを用意しろ」 どうした、ユキト? 我が戦略に畏れを為して、声も出ないのか。 お前はαの稲妻と呼び声も高い「神に似たる白き魔神(ヴ ァ イ ス ミ ハ エ ル)」《ローエングリン》のパイロットだ。 しかし、ユキト お前の名声をもってしても、シルバーリベリオンの足元にすら及びもしないんだよ。 俺の前に跪け。 サランラップを我が元に届けよ。 「………俺はコンドームを使いたいな」 「ユキト、俺は悲しいよ。古き慣習に固執する囚われ人になり果てたのか」 「………サランラップは斬新過ぎる…かな。コンドームがいいと思うよ」 「勝手にしろ」 フッと鼻先で一蹴した。 「俺はサランラップを巻くぞ」 ……………… ……………… ……………… 「なんで、ナツキが?」 額に手を当て、大仰に溜め息をついて見せる。 そんな事も知らないのか、と…… 「避妊を甘く見るな。いんけーに被せる物が必須なのだ。そうでなければ、リスクを伴うせぃこぅとなるんだ」 ……………… ……………… ……………… ユキト、博識な俺を前に言葉さえ失ってしまったか。 いいだろう。 俺を畏怖し、敬う事を許してやる。 ……………… ……………… ……………… 「ナツキは陰茎を使わないよ」 …………………………え。 し、しかし! 教科書には、避妊するにはいんけーに被せてせぃこぅする、と。 確かに、そう記されていた! 「俺がナツキの中に入るんだ。 ナツキのおちんちんは外に出てるから、ナツキに避妊具は必要ないんだよ」 …………………………そう…だったのか……… 俺………サランラップ巻かなくてもいいのか? 「………………でも」 クッ……と、秀麗な唇が吊り上がった。 「そういうプレイもいいかもね……」 (プレイ?) ユキト、お前なに言ってるんだ? プレイってなんだ? ゾゾゾッと背筋に寒気が走ったのは、どうしてだ。 ……………… ……………… ……………… お願いっ、なにか喋ってくれ!ユキト! ……………… ……………… ……………… ビュクンッ ユキトっ、どうしてお前のアソコが膨らんだんだっ? 「そそるね。エロいよ、サランラップ♪」 なんで? サランラップはエロくない! ………では、まさか。 よもや~ ゾゾゾッと、背筋に寒気が走った。 ユキトが想像したのは、サランラップ単体ではなく~ サランラップと俺♠ 「今度、ナツキのおちんちんにサランラップ巻いてあげる♥」 ユ、キ、ト? 「透明ってところがいいな♪ きつく巻いたサランラップの中でイケずに、ビュクビュク跳ねて、先走りでグズグズに白くなったナツキの可愛い雌しべをいっぱい虐めてあげるよ♥」 やーめーてーッ!! サランラップは、そんなふうに使う物じゃないーッ ………俺が言い出したんだけど~ でもっ。 人目を(はばか)る淫猥なプレイの意味で、言ったんじゃないんだァァッ! サランラップをアソコに巻いてはいけません!!

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