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Ⅴ【マルク】第42話

失った時間は取り戻せない。 俺は……取り返しのつかない失態を犯してしまった。 お尻で、イってしまった……… ユキトが呆れている。 そうだよな。 あり得ないもんな。 前の刺激なしで、雄しべが暴発するなんて。 男として、明らかにおかしい体だ。 うぅぅ……… 熱を全部放出した脚の付け根の雄が、フニャンとしおれている。 先っぽも皮の中に隠れてしまった。 (俺も、皮があったら入りたいよぅ……) ユキトに合わせる顔がない。 無造作に伸ばした手が掴んだ布団に、顔をうずめた。 「ちょっ、ナツキどうしたのっ?気分が悪いの?」 「フガフガガァ~」 「えっ、なんて言ったの?布団どけて、顔見せて」 見せられる訳ないっ。 見せたら別れ話、切り出されるんだ。 ナツキは変だから、もう嫌だ。……って言われて、ユキトに愛想つかされるんだ。 結ばれて……… 結ばれた数分後に別れるなんて……… なんで俺、セックスが上手くできないんだよ。 誰でもできる事なのに。 こんな事なら、アキヒトと練習しとけば良かった。 アキヒトなら、セックスの稽古に付き合ってくれそうだし。 恥ずかしがらずアキヒトに協力してもらって、鍛練を積んでおけば、こんな事になりはしなかっただろう。 「ねぇ、ナツキ。出てきてくれないか。ちゃんと話しよう」 「フゴフガゴォー」 「布団かぶってちゃ、なに言ってるか分からないよ」 別れ話だろっ……て、言ったんだ。 …………もう別れるしかないのかな。 俺達は………… 「あのね……ナツキ。俺、そろそろ限界なんだ。また動きたいんだけど……」 「フゴォオォー」 勝手にしろー! どうせ『お前が出て行かないなら、俺が出て行く』……ってやつだろ。 ユキトが出てったら………思いっきり泣けるから……… ………………そうしてくれるか。 お前は最後まで優しいんだな。 ありがとう、ユキト……… 「ごめん、ナツキ」 ごめん、ユキト……… 「ごめんね、ナツキ………………ピストン始めるよ」 うん、ピストン……… ……………… ……………… ……………… えっ、ピストン? ……………… ……………… ……………… なんで、ピストン? ピストンって、あれだろ。 お尻の孔、引き抜く寸前で戻って、一気に奥まで穿つヤツ 俺がッ……………… あの時、イってしまった……二人の共同作業…だ……★ なぜ今更、それを再開するんだッ! そもそもッ なんで、まだ!! お前が俺の中にいるんだァァッ!! 「ユキトッ」 パァンっと払いのけた布団は、軽やかに…… 股間で待機していたユキトの頭に不時着した。 脚の間でユキトが……開眼(かいげん)前のお地蔵様よろしく、白い塊になっている。 「ピストンって、どういう事だっ」 答えろ、ユキト! 「俺と別れるんだろっ」 なのに、どうしてっ! ブワンっ 布団が取り払われて、床に落ちる。 「なんでだよっ。ナツキは自分だけイったら、それでいいのか!俺を捨てるのかよ! 最初っから、俺とのセックスは遊びだったって事かッ」 獰猛なキスが胸の実をかじる。 もう片方の手が、反対側の実を乱暴につまんでこねた。 「別れないからな! ナツキが別れないって言うまで、雄の楔は抜かない!」 …………………………え。 「………ユキトが、俺と別れたいんじゃないのか?」 「どうして俺が、ナツキと別れたいんだ?」 ずっと、ずっと……… 子供の時から好きだったんだ。 ナツキは覚えてないだろうけど。 一緒に暮らしてた時から、ずっと…… 最初は、弟ができたような気持ちだった。 ……でも、気づけば、弟以上の愛情が芽生えていたんだ。 ナツキを守りたい。 愛したい。 キスしたい。 セックスしたい。 幸せにしたい。 「俺は一生、ナツキと別れないよ」 大きな掌が、頬を包んだ。 「俺が、ナツキを泣かせたのか」 指の先が、涙の軌跡を辿る。 (……俺、泣いていたんだ) ユキトと別れるのが悲しくて。 寂しくて。 感情が抑えられなくて。 なにがなんだか分からなくなって。 どうしようもなくて。 抑えられない気持ちが、涙になってあふれ出した…… 「たぶん……俺が勘違いさせたんだね。気持ちは言葉にしないと、伝わらないもんな」 俺は………… 「ナツキが好きだよ」 愛してる 「繋がりたいんだ。心も、体も……」 大切なナツキを……… 「俺の手で守って、幸せにするよ」 悲しみの涙が止まって…… 熱い涙がこぼれ落ちた。 (すみれ)の瞳が流した雫を、指の腹でぬぐって、ペロリとユキトが舐める。 「泣かないで……だけど、どうしても泣くのなら、ナツキの涙は俺のものだよ」 涙が止まらない。 俺はユキトのものだから…… こぼれる涙さえも、ユキトのものなんだ。 ありがとう、ユキト…… もう寂しくないよ…… 悲しみの涙はもう、お前に拭わせないよ。 お前が俺を想うように 俺もお前を幸せにしたい 幸せにできたらいいのにな。 ………………どうして、お前はαなんだ。

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