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Ⅵ【ファウスト】第3話

「頭の後ろで腕を組め。腕を組んだら、床に伏せろ」 銃口が向けられている。 最期まで、αに平伏す屈辱を選ばねばならぬとはな…… 後頭部で指を絡める。腕を組んで、ベッドから降りようとした時。 グイっと体躯を持ち上げられた。 ……ユキト? 「身支度を整えさせてくれ。このままでは可哀想だ」 ……俺……裸だから…… 「5分で済ませてください」 呆気なく部隊長が了承した。 「体を拭きたい。タオルがバスルームにある。見張りは、そこのお前」 機銃を構える兵士に、ユキトが視線を手向ける。 部隊長が「行け」と顎で兵士に指示した。 俺はユキトに横抱きにされて、ベッドを降りる。 体を覆うものがないから、せめて秘所だけでも見えないようにと、ユキトがぎゅっと体躯を密着させて抱き寄せてくれる。 角を曲がった直後 「ハラダ一等兵」 微かな声が、機銃を構える背後の兵士を呼んだ。 「Ω捕虜は19独房に連れて行くのか」 「……いえ。甲板(デッキ)に連行します」 デッキだと…… 「捕虜を見て敵が停戦すれば、銃殺は中止します。しかし、攻撃が継続されれば……銃殺は予定通り執行します」 攻撃が止まる筈ない。 マルクを攻撃しているのは、Ω解放軍じゃないんだ。 俺の姿は抑止にならない。 デッキで俺は、確実に銃殺される…… 「……話してくれた事に感謝する」 「自分如きに勿体ないお言葉であります」 「脱衣所のドアを開けておく。隙間から銃を差し込んで見張れ」 「いえっ、自分はシキ一尉を疑っておりませんっ」 「そういう問題ではない。お前の上官は俺じゃない。軍人として、行うべき事を(まっと)うしろ」 「はっ」 ()りガラスの向こう バスルームの脱衣所のドアから、銃口がのぞいている。 静かに俺を下ろすと、ホットタオルでユキトが俺の体を丁寧に拭いてくれる。 「《ローエングリン》で出る。デッキでお前を奪還する」 「なに言ってるんだっ」 声を抑えて叫んだ。 「死にたいのかッ」 そんな事をすれば…… 敵の砲撃を受ける。 マルクからは離反者とみなされて、一斉射撃されるだろう。 ユキトの操縦技術と《ローエングリン》の性能をもってしても…… 無理だ。 《ローエングリン》は墜落する。 「俺を信じろ」 「……信じない」 「ナツキっ」 視線で打たれたかのような衝撃が走る。しかし、俺は(かぶり)を振った。 ユキトの眼差しを振りほどく。 「お前の『死』という可能性が1%でもある未来を、信じる気にはならない」 俺は、銀の叛逆者(シルバーリベリオン)だ 「お前が生きる確実な未来を選ぶ」 「………………俺じゃッ」 体は熱い(かいな)に包まれていた。 「俺じゃあ…………」 腕に抱かれた俺に、凍えるユキトのささめきが降る。 「お前の未来を変えられないのか」 ちがうよ ユキト……… 「お前が変えてくれたんだ」 お前に出逢えたから、いまの俺は…… 「とても幸せだよ」 泣き出しそうな瞳を、両手で包んだ。 両頬に掌を当てる。 「出逢ってくれて、ありがとう」 今なら少しだけ、信じられる…… 未来を変えたお前は、運命を持っている。 お前は、俺の………… 『運命のα』なのかもしれないな あと少し もう少しだけの、残された時間を愛し合いたい。 お前を慈しみたい。 愛してくれ、ユキト 俺の心を、お前に全部やる。 いつまでも、そばにいるよ ずっと、ずっと いつかお前が、別の運命と出逢う日まで 運命の人と感じる転機が巡りくるまで…… お前の心の中に、俺はいる その日が来るまで、俺を感じてくれ 鼓動よりも強い熱を、お前の中に刻みたい。 この口づけで……… ユキト、愛している………

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