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Ⅵ【ファウスト】第4話

風が()いた。 マルク甲板に立つ。 砲撃の爆風が白む空を裂いた。 水平線が燃える。 太陽を待つ事なく、俺は死ぬ。 ………『ユキト』 最期に紡いだ名前がお前で良かった。 身支度を整えてバスルームを出た直後。 身柄を拘束された。 革ベルトで腕を縛られ、ボールギャグの口枷を噛ませられる。 ユキトは……… 軟禁された。 俺の処刑が終わるまで、自室を出る事は許されない。 今も兵士に監視されている。 内心、ほっとしてるんだ。 ユキトは無謀な行動を起こせない。 ユキトにはもう…… 自由が無い。 代わりに命を保障された。 良かった。 (憂いはない) ……………………散るか。 俺の見る事のない世界を、ユキト、アキヒト お前達が見てくれ 世界は絶えず動き続ける。 世界の鼓動を聞いてくれ。 海に鳴く潮騒 空に吹く風 星の瞬き 湖面に浮かぶ月 大地に色彩を与える太陽 雨 命を感じてくれ それらは全部、俺が守りたかった尊い命の叫びだ。 人の尊厳が、世界の鼓動と共にある。 ………そう思わないか? お前達……… 世界は生命の鼓動であふれているよ 生きたいと願う鼓動が、明日を造るんだ。 ユキト アキヒト 世界の鼓動を止めるな。 お前達は、生きろ! 爆風の割った藍の空に、白波が牙を立てた。 攻撃は止まない…… 背後 部隊長が手を振り上げた。 カチャ カチャ カチャ 機銃を構える音が、心臓に忍び寄る。 腕が降り下ろされた瞬間 背中から銃弾が、この体を貫く…… 海が、哭いた。 ヴァァーンッ! 銃声 ……そして、(かお)り立つ硝煙 バタンッ……人形のように。影がデッキに沈んだ。 うつ伏せて倒れた部隊長が動かない。 (誰だッ) ユキトは来られない。 では? 銃を撃ったのは、一体誰だ。 α戦艦マルクで、αを撃つαとは……… 誰なんだ? 銃声の轟いた闇を、機銃が一斉に捕らえた。 「Schieβen(シーズン〈撃つか〉)?」 黒い蔭が嗤った……

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