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Ⅵ【ファウスト】第6話

Achtung, Feuer(アハトゥング フォイヤー〈撃てー〉)!!」 小型無線機で号令する。 マルク全砲弾が、夜明け前の空を一斉爆撃する。 赤く燃える火の玉が海に墜ちる。 幾つも、幾つも…… 朱色の光が沈んでいく。 轟音が波を裂き、天高く水柱を噴き上げて…… 「攻撃系統は全て私が掌握した。敵の掃討は時間の問題だ」 空に射す光は、太陽ではなく…… 命の灯火 燃えるジェネラルの装甲が割れる。 あれは、なんだ? 破壊されたジェネラルから《タンホイザー》がッ 上空からマルクに攻撃を仕掛けてきたのは、Ω解放軍ジェネラルでも、α軍ジェネラルでもない。見た事のない機影だった。 しかし。 装甲が破壊されて墜ちたジェネラルは、紛れもなく《タンホイザー》 α-ジェネラルだ。 敵は《タンホイザー》に偽装をかけた。 α vs α α同士の内乱なのか ガチャンッ 強い腕の力に引っ張られて、ドアが閉じる。 艦内通路 薄明かりの下で、冷たい掌を俺の頬に寄せた。 「敵ジェネラルの掃討が終了次第、本艦は潜航する。外は危険だ」 拘束ベルトで動けない体 口枷で喋れない口 どうしたら伝わる? この艦に、なにが起きている? 俺は知りたいんだ。 「《タンホイザー》は出せない。敵も《タンホイザー》だ。敵味方が分からなくなり、同士討ちになってしまうからね」 だから、マルクの砲撃に(こだわ)っていたのか。 《タンホイザー》を操縦できるのは、αだけ…… やはり…… この戦闘はαの内乱 下剋上だ。 下層の者が力によって、上の者に取って代わる…… 力で成り上がった者は、より強大な力を求める。 より強大な力を恐れる。 マルクの敵αは《トリスタン》を恐れ、求めている。 国際禁止兵器 一瞬にして無差別大量殺戮を可能にする《トリスタン》を手に入れるか…… さもなくば破壊するか。 どちらかの道を、必ず選ぶ。 敵は形振(なりふ)り構わず攻めてくるぞ。 (どうする?ハルオミ) マルクの戦力は限られている。 海上で孤立している。補給が行えなければ、物資は枯渇し艦は沈む。 これは、クーデターだ。 《トリスタン》の行方がクーデターの可否を握る。 あらゆる手を敵は使ってくる。 クーデターの失敗は、即ち死だからだ…… 「君は知らなくていい事だ」 冷たい手が頬を撫でた。 「だが君は見てしまった。敵が《タンホイザー》である事は、砲撃部隊しか知らない。 君を独房に入れて、この事をほかのαに話されては面倒だ。 君には、私の目の届く所にいてもらうよ」 抱き寄せられると同時、胸に固い異物が当たった。 金属質の…… 「私は卑怯だ。君を脅す」 銃口を胸にあてがう。 「麻酔銃だが、至近距離で撃てば命の保障はない」 冷たい声が降る。 「君が、君自身の命を無駄にしない選択をする事を願う」 切なく積もる粉雪のような声 「私に従え、Ω」 トリガーに指をかけた。 「αクーデターを知った君を、Ω解放軍に帰す気はない」 ………………ナツキ 冷えた銃口から響く叫びが、鼓動を揺さぶる。 「私のもと以外、君が生き延びる場所はない」

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