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Ⅵ【ファウスト】第7話

俺は……… Ω解放軍 統帥 シルバーリベリオン 為すべきは、αクーデターの情報をアキヒトに伝える事だ。 αが内乱を起こしている今こそ、好機 攻め込め! ゆえにハルオミは恐れている。 クーデターの情報が外部に漏れる事を。 だから、自ら俺を監視するんだ。 (待て) なぜ監視なんだ。 どうして交渉材料にしない? 俺は、Ω解放軍 統帥 停戦 武装解除 αの要求を通すのに、これ以上ない交渉材料だ。 なぜ俺を使わない? (ハルオミはまだ……) 気づいていないのか。 『ヒダカ ナツキ』という情報までしか辿り着いていない。 ならば、なぜだ? 別の疑問が浮上する。 統帥でもないΩ捕虜など、口を封じてしまえばいい。 今すぐ、そのトリガーを引いて 胸に銃弾を打ち込むのが、最も簡単で。 且つ、最も確実な情報漏洩を阻止する方法だ。 なぜハルオミは、俺を生かす? 俺を生かしておくメリットがどこにある? これは、黒の支配者(シュヴァルツ カイザー)の揺さぶりなのか…… 「まだ分からないかい?」 ハルオミの手が、俺の後頭部を抱え込んだ。 「愛する人に銃をかざしてプロポーズするなんて、私は最低の男だね」 ………………ハルオミ いま、なんて言った? 「私のそばに置くのだ。Ω捕虜の身分のままでは考えていない」 カチリ 金具が外れて、ボールギャグが滑り落ちる。 口枷の戒めが解けて、吸い込んだ酸素が熱い…… 「私の家族になってほしい。 私の子供を産んで、新しい家族をつくってほしい」 なに…いって……… 「色気のないプロポーズだね」 お前は、黒の支配者(シュヴァルツ カイザー) 俺は、銀の叛逆者(シルバーリベリオン) 蔭なる心理の黒い声で、俺の思考を操ろうとしているのか? 「ナツキ」 声が、俺を呼んだ。 シルバーリベリオンではない、俺の名前を 「私だけがナツキを幸せにできる」 ユキトと同じ漆黒の髪 ユキトと同じ陶磁の肌 ユキトと違う瞳の双玉は、藍の宵闇を宿したサファイア 傲慢な言の葉を紡いだ薄い唇が、再び開く。 「私には卑怯に正当性を持たせる力がある。覚悟があるからだ」 幸せにする覚悟 「愛する唯一人の人の人生をもらうんだ。 卑怯すら、最終的に君に認めてもらう決意を持って……君を愛し続けるよ」 お前は……… 黒の支配者じゃない。 お前は……… シキ ハルオミ だ。 「君を妻に迎えたい」 俺は……………… 銀の叛逆者なのに……………… 俺達二人の体躯の間で光る銃口が、十字架のようだ。 贖罪は無い

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