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Ⅵ【ファウスト】第19話

「ユキトはシャワーどうする?」 眠って頭もスッキリ シャワーを浴びて、体もスッキリ 「自分の部屋で浴びて来たからいいよ」 「そうなんだ」 「あぁ」 頷いたユキトが立ち上がった。 シャワーは要らないと言ったのに、どこへ行くのだろう……と思ったら、俺の後ろに立って…… 「濡れてるぞ」 頭に乗せていたタオルを取り上げられた。 ワシャワシャワシャ タオルごと髪の毛をかき混ぜられる。 「乾かしてあげるよ」 ブワアァァー ドライヤーの温風で、ふわんっ……と、髪が舞い上がた。 「いいって。自分でできるから」 「ダメ。俺がナツキに触れたいの!」 ユキトの節張った指が、繊細な手付きで髪の毛を梳く。 ブワアァァー 『……なぁ、お前は俺と兄上のどっちが好きなんだ?』 ブワアァァー 「ユキト?なにか言ったか?」 「えっ、なにも言ってないよ」 「そっか……」 ブワアァァー 『事情は分かってる。そうしなければならない状況だった事は。……でも 兄上を少しでも好きでなければ結婚…しないよな』 ブワアァァー 「ユキト、聞こえない」 「喋ってないよ」 「なら、いいんだけど~」 ブワアァァー 『カッコ悪いな、俺。ナツキの事好きなのに……ナツキの気持ち疑うなんて』 ブワゥン ドライヤーの送風を「COOL」に切り替えた。 ブワワァァァー 『………ちっちゃい男』 ヒュアゥゥーン 「はい、綺麗になった」 送風を終えて、髪を手櫛で整える。 一房手にとって、口づけを落とした。 「いい匂いがする……」 「そう?シャンプーの匂いだと思うぞ。 ハルオミさんの使ってるシャンプー、使わせてもらったから」 手から黒髪がこぼれ落ちた。 「ナツキは兄上を、そんなふうに呼ぶんだね」 「あ……うん。ハルオミさんも喜んでくれたようだし……」 「そうじゃなくってッ!」 「痛ッ」 手首を掴まれて、強引に引っ張られる。 放り込まれたのは、シャワーを浴びたばかりのバスルームだ。 「冷たっ」 頭上から水滴の粒が降ってくる。 「ユキトっ、冷たいっ」 腕を掴まれているから逃れられない。 容赦なく、冷たいシャワーをユキトが降らせてくる。 「やめてくれっ」 着衣が濡れて肌に張りつく。ベチョベチョだ。 シャワーを持つユキトの手が、執拗に水滴を髪を浴びせる。 「今のナツキの匂い、嫌いだよ」 どうして? さっきは『いい匂い』だって言ってくれたのに…… 「俺はッ」 シャワーを離した手が、俺の肩を掴む。 爪痕を埋めるように。 きつく、強く…… 「ナツキを傷つけたくないッ」 ユキトも濡れている。 頭上から降り注ぐシャワーの雨の中で…… 熱い(かいな)に抱きしめられる。 「こんな気持ちでっ………お前を抱きたくない………」 濡れた両腕が震えている。 シャワーの雨に熱を奪われて、俺を(いだ)きしめながら震えている………

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