160 / 288
Ⅵ【ファウスト】第21話
「……ナツキには、笑っていてほしい」
漆黒の双瞳が、俺を見つめて微笑んだ。
「大丈夫。無理に笑ってないよ。
ナツキが俺の代わりに泣いてくれたから。心の中の涙が全部、流れ出たよ」
クシャっ
湿ったままの髪に、掌が降りた。
「今度はナツキ。俺と一緒に笑ってくれないか」
口づけを交わして、手と手を重ねた。
指と指を絡め合う。
「今なら、お前に渡せる」
ブラックダイヤの瞳が俺を映す。
穏やかに、整然と……
「俺に?」
「忘れたの?寝る前に言ったろ。『起きたらあげる』って……
楽しみにしててほしかったのに」
「あっ」
ハッとして声を上げてしまった。
「思い出した?楽しみ?」
「……うん」
「どんなふうに?」
「えっと……ドキドキしてる」
ユキト、なにを用意してくれたんだろう?
「俺もだよ。ドキドキしてる」
戻ってきたユキトの手の中にあるのは、ピンクのリボンで結ばれた小箱……だ。
「開けてみて」
リボンをほどいた。
包み紙が少し不恰好なのは、もしかして、ユキトが包んだからなのだろうか。
「………これ」
箱の中
明かりの下でキラキラ輝く、銀の光
シルバーのキーリングだ。
「海の中だから、こんなのしか用意できなかったけれど」
キーリングに鎖が通されていて、ネックレスになっている。
「指輪じゃないけど、身に付けてほしい」
チュっ
左手の薬指にキスが落ちた。
「結婚しないか」
「えっ………」
「兄上にナイショで。ナツキ、結婚しよう」
ともだちにシェアしよう!