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Ⅵ【ファウスト】第26話
カツン、カツン……
前方から足音が近づいてくる。
廊下の角に身を隠した……が。
あぁ、こいつは大丈夫だ。
昨夜、ユキトの部屋に押し入ってきた一人だが、捕縛部隊の一員として駆り出されていたようだった。
確か、名前は……
俺の姿を見つけて敬礼する。
そうか。
俺は、ハルオミさんの妻だ。
艦内には既に公表されているらしい。
マルク最高責任者の妻ともなれば、Ωといっても上の立場にあたるという訳だ。
「ハラダ一等兵」
「はっ」
よし、名前は合っていたようだな。
「マルク元 提督はどこだ」
「はっ、地下牢獄6番であります。……それが、なにか?」
ドンッ
「ぅワッ!」
「お前はここにいろ。絶対、外に出るな!」
「……あっ、シキ夫人」
「変な名前で呼ぶなッ!!」
ガンッ
閉めたドアに一発、蹴りを入れる。
俺はヒダカ ナツキだ!
……シキ ナツキに、結婚して名前が変わったが……
(その呼び方は嫌だ)
ともあれ。こいつは、なにも知らない。
空き部屋に閉じ込めておくのが良策だろう。
……両手を挙げた。
「無抵抗な者を撃たないだろう」
……違うな。
「撃てば人質としての価値がなくなる」
「自分の置かれた立場を理解しているようだな、Ω」
「理解しているから、俺は副総理の妻の座に就いた。お前よりも上の立場のな。………戦艦マルク 元 提督」
「口を慎め!私はもうすぐ提督に復職する」
やはり。
背後で銃を構える男は、マルク元 提督
息のかかった部下の手引きで脱獄したか。
「手を挙げたまま、ゆっくりこちらを向け」
別の声の指示が飛んだ。
聞き覚えのある声だ。
昨夜の部隊長か。
振り返った俺に突きつけられた銃口は、4つ
裏切り者のαは四人
「暗殺予告があった以上、副総理の身辺警護は固い。副総理を脅す材料が欲しい訳だな」
「無論、なってくれるだろう。そのために生かしてやるのだ」
「下卑た考えだ。……時に、元 提督。お前は煙草を嗜むか?」
「煙草?……私にここで吸わせて、火災警報器を作動させて助けを呼ぶ気か」
「そうだ。助けは今のうちに呼んでおいた方がいい。俺から警告させて頂くよ」
男が嘲りの笑みを浮かべた。
「銃も撃てずに、どうやって我々を撤退に追い込むというのだ?」
「撃てるさ、銃なら」
「手を挙げたままで、どうやって?」
「俺が撃つんじゃない。撃つのは……」
ガンッ
背中のドアを蹴った。
「起きているかッ、ハラダ一等兵!」
「はっ、シキ夫人!」
ズバァンッ
銃口が火を噴く。
開いたドアから発射された銃弾が、四人の男の拳銃を弾いた。
「ご苦労、ハラダ一等兵。そして、その名で俺を呼ぶなァァーッ!!」
「えっ、なぜっ?!ぅワッ!シキふじッ……」
ドンッ
部屋の中に突き飛ばして、ドアを閉める。
ガンッ
蹴りを一発、ドアに入れた。
………………寝てろ。
「仕上げの時間だ」
バリンッ
赤い警報ボタンを、プラスチックごと叩き割る。
火災を報せるベルが鳴る。
ダンッダンッダンッ
防火壁が作動した。
堅固なシャッターが下りる。艦内の延焼を最小限に止める壁が囲む。
逃げ道はない。
α……お前達の逃げる道はな。
天井から消火ミストが降り注ぐ。
視界が真っ白に煙った……
さぁ、夢の底まで堕ちろ。α共
お前達は、もう動けない。
吸い込んでしまったのだろう?
このミストを……
最高級の毒なんだよ。
お前達に贈る悦楽地獄だ。
下卑たαが。
悪夢の快楽に沈め……
「立てないだろ……いや、勃ててるか?」
フフフ……
「ミストに、濃縮した俺のフェロモンを混ぜた」
お前達が虐げ、家畜扱いしてきたΩのフェロモンだよ。
普段、抑制剤で抑えているΩのフェロモンは、αとβを強制的に発情させる。
濃縮フェロモンは通常の100倍
密閉されたこの空間で希釈は不可能
動けまい。
「教えてくれよ。家畜に跪く感想はどうだ?」
涎垂らして、言葉も出ないか。
股間を押さえて、気持ち良さそうに……獣共が。
「ちんこおっ勃てて、苦しめよ」
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