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Ⅵ【ファウスト】第28話

「シキ夫人、お怪我はありませんか」 ………ユキトっ!! 「震えておられます。怖かったのですね」 なに爽やかに、デキる軍人演じてんだ! 「私の手をお取りください。お部屋までお送りいたします」 不自然でない程度に肩を抱いた手が、さりげなく下りて目の前にかざされる。 この手を取れ……だと? その前に、お前は俺に言わなければならない事があるよな~💢💢💢 「如何されましたか、シキ夫人♪私がお守りいたしますよ」 右手が俺を右手を持ち上げて、半ば強引にユキトの左手を握らされた。 「では、参りましょう」 「……参らん」 俺は絶対、参らんぞー! 「なぜです?シキ夫人?」 それだ、それ! その呼び方ッ 4回目だァッ お前まで呼ぶのかァァー!! その呼び方でェェー!! 「変な名前で呼ぶな!!」 プニっ ガスマスクの兵士達の注意が、周囲の警戒に向いている隙に、ユキトの頬をつねってやる。 「なんで?ナツキはシキ夫人だろ。周りの目もあるし、呼び捨てはできないよ」 耳打ちしてきたユキトの意見は正論……なのかも知れない。 それでもだ! 「……その呼び方、イヤだ」 「俺は好きだよ、シキ夫人♪」 2回追加 6回目だッ お前、俺をからかって遊んでるのか? 俺がこんなに嫌がってるのに。 「俺の妻だって、公言してるみたいじゃないか」 「………………えっ」 「ナツキは俺と秘密の結婚したんだから」 俺は、シキ ユキト 「ナツキは、シキ ナツキで『シキ夫人』だよ♪」 ……なんなんだ、この気持ち? ちょっとだけ……胸の奥がキュンっと疼いてしまった。 「……公私混同だろう」 文句は山ほどあったのに。 頭の中が真っ白になって出てこない。 「顔が赤いようですが。お疲れなのかも知れませんね。どうぞ、私の手をお取りください」 ……俺の顔が赤いのは、みんなお前のせいだァァーっ 分かってるクセにっ 恨みがましく睨んだ視線は、敢えなくブラックダイヤの意地悪な瞳に絡め取られる。 それなのに、なんなんだ。 キラキラオーラを身にまとった、王子様系デキる軍人はーッ 爽やかの半分は、意地悪でできているのを知ってるぞ! ………………なのに。 手を握られて、腰を抱かれた俺、顔から火を噴きそう。耳まで真っ赤だ…… これって、公開デート……なのか? きゅっとユキトの手を握ると、きゅっとユキトが俺の手を握り返してくれた。 俺、ユキトの意地悪な目と優しい手に、見事落とされてしまった。 それでも幸せだって、感じちゃうんだ。 意地悪されてるのに…… 優しくしてくれるから…… 『シキ夫人』なんて呼ばれて、胸がざわめき翻弄されている乙女なシルバーリベリオンの姿は絶対に、アキヒトには見せられない。 俺……結婚しても恋してるんだ。 でも、どうしてユキト 『番』の事は、なにも言ってくれないんだ? ……嫌…なのかな。 「俺から切り出した方がいいんだろうか」 口をついて出た呟きは届かない。 隣を歩くユキトの横顔は、凛々しくて…… つい見つめていたら、穏やかな眼差しが微笑みかけてきた。 恥ずかしくて、視線を逸らしてしまう。 ほんとはもっと、ユキトの瞳、見ていたいのに。 これからも、見ていたいな。 だから……… 臆病になる。 『番』の事、言って嫌われたらどうしよう………

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