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Ⅵ【ファウスト】第32話

「シルバーリベリオンではないだろう」 ………ハル…オミ……さん? 「仮面の男だよ。戦略が余りにも短絡過ぎる」 「えっ」 「シルバーリベリオンはテロを行わない。テロリズムに走ろうと思えば、既にこれまでに幾つか起こしてきた筈だ。 今になってテロを起こすのは、おかしいね。私の知っているシルバーリベリオンならば、こんなずさんな戦略は立てないだろう」 一体、あなたは真実にどこまで辿り着いているんだ? 「しかし……」 ゆっくりと瞬いた藍色の双眸が、静かに開く。 「仮面の男には『銀の叛逆者(シルバーリベリオン)』として、死んでもらう」 「なぜッ!」 声を荒げた。 「シルバーリベリオンの戦死が発表されれば、戦局は一気に我々に傾くからだ。 シルバーリベリオンの中身なんて、どうでもいいんだよ」 そんなッ 俺は、無差別大量殺人者 テロリストとして死ぬのか! 「ダメだ!真実を公表しろ!」 「真実は隠蔽(いんぺい)する。シルバーリベリオンの死によって、戦争は終結に向かうだろう。そうなれば、何万もの国民の命が助かるからね」 「国民じゃない。αだろう!」 「αは国民だ」 「しかしッ!」 ふわり…… 大きな掌が髪に下りた。 「それにね」 声が降ってくる。 髪を撫でながら…… どうしてこんなにも…… 優しい手付きで、労るんだ…… 「偽者のシルバーリベリオンが死ねば、本物のシルバーリベリオンの命を救えるかも知れないじゃないか」 「……ハルオミさん?」 「琵琶湖決戦でシルバーリベリオンの機乗する《荒城弐式》は《ローエングリン》の長距離砲デュナミスを被弾し、大破した。 シルバーリベリオンは負傷し、戦線復帰できない状態だろう。 彼がもし、シルバーリベリオンの名を捨てるならば……」 熱い腕に、体が絡め取られた。 「生きられるんだよ」 抱きしめられている。 ハルオミさんに……… 「無駄に命を散らせたくない」 大きな手に後頭部から包まれて、引き寄せられる。 耳元にかかった吐息が熱く鼓膜を穿った。 「私の策に同意してくれるなら、ナツキ。私に抱かれてほしい」 瞬きさえできない。 「君を守れるのはユキトじゃない。私だ」 選ぶのは、君だよ……… 「俺は………」 俺がもし、ハルオミさんを選んだら……… Ωの皆を、 アキヒトを、 裏切る……………… 「裏切りではない。中から変えればいいんだよ。私を利用しろ」 ドクンッ 鼓動が悲鳴を上げた。 「日本国 内閣副総理を操り、シキ ナツキが日本国を変えるんだ。血を流す事なく、この国を君が陰で操れ。 シルバーリベリオンでさえ為し得なかった事を、シキ ナツキが為し得れば、裏切りではなくなる」 俺が、ハルオミさんとの婚姻を利用する? そんな事が可能なのか? Ωの皆と(えにし)を絶てば…… アキヒトともう二度と会わなければ…… ユキトへの想いを捨てれば…… この国が変わる。 「俺は、あなたに………」 「ナツキッ!」 銃声が轟いた。 ぽたり、ぽたり…… 赤い鮮血が、床に垂れる。 お前………………撃たれたのか。 俺を庇って……………… どうしてッ! 「俺を庇ったァァーッ!!」 赤く染まったユキトが崩れ落ちる。 その先にいるのは、硝煙の流れる拳銃を握るガスマスクの兵士 ユキトを撃ったのは、 「貴様かァァァーッ!!」

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