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Ⅵ【ファウスト】第35話

「緊急用ボートで脱出します。ボートまでの通路は確認済みです。軍服を着て、ガスマスクを装着ください。 今なら怪しまれずに艦内を移動できます」 フェロモン濃度が高く、ガスマスク着用が義務付けられているこの状態ならば、疑われる事なくα兵士に紛れるのは容易い。 だが。 「お前はどうやって乗り込んだんだっ?」 マルクは海上の要塞である。 気づかれずに近づき、マルクに潜り込むなんて不可能だ。 ましてや艦は今、潜水している。 侵入の余地はない。 「《タンホイザー》を奪ったんですよ」 α-ジェネラルを…… では、まさか! 「わざと墜ちたのかッ」 「気づかれましたか。操縦には自信があったんですが、さすがに墜とされてしまいました。 しかし、潜入するにはその方が都合いい」 潜水を開始する直前の戦闘だ。 マルクの砲撃が撃ち落とした《タンホイザー》の中に、アキヒトが紛れていたのだ。 砲撃を受け、墜落する機体から緊急脱出装置で避難・デッキに不時着して艦内に潜入した。 ……恐らく、こうだろう。 アキヒトには《ローエングリン》を操縦したパイロットセンスがある。 βで、感応性の違うα-ジェネラルであっても飛行ならば可能であろう。 「無茶するなッ!死んだらどうする!」 砲撃をまともに受けたんだ。 生命保護装置の緊急脱出システムが自動で作動するとはいっても、100%保障するものではない。 命をチップにしたギャンブルじゃないか! 「俺は生きています。あなたの目の前に立ってるでしょ」 「そういう事を言ってるんじゃッ」 言葉は遮られた。 逞しい両腕が、俺を抱きしめている…… 「今はなにも聞きません。……あなたが無事で良かった」 アキヒトにも…… 見られている…… ユキトが付けた、赤い鬱血を。 襟が乱れて、鎖骨にも胸元にも、赤い痕が幾つも散っている。 「これは……」 強姦じゃないんだ。 ……伝えようか躊躇した瞬間 ボタンが下まで、一気に弾け飛んだ。 「なにするんだっ」 腕をたくしあげられて、無理矢理シャツを脱がされる。 上半身を覆う物を取り上げられてしまった。軍服に着替えるとはいっても、あんまりだ。 ギィッとアキヒトを睨んだ……けれど。 「俺、彼シャツ大嫌いなんで」 ビリビリビリッ 目の前で白いシャツを破いてしまった。 アキヒトに見透かされている……のか? 俺とユキトの関係を 引き裂かれた白いシャツが、床に捨てられている。 「着替えなくていいんですか?襲っちゃいますよ」 「……ぅ」 いつまでも裸でいる訳にはいかない。 これでは軍服を着る以外に選択肢はない。 けれども…… 「アキヒト」 お前は、なぜ…… 「α-ジェネラルに乗っていたんだ?」 用意された軍服を手に取りながら、背後のアキヒトに問いかける。 「どうやって《タンホイザー》を手に入れた?」 ガッ 不意に、背中から腕を掴まれて振り向かされる。 「なにするっ」 「へぇー?女の子みたいな事するんですね」 「これはっ」 お前が……見てるから。 アキヒトの視線が舐めるように、俺の胸を見るから…… 隠すだろう。 手と腕で、胸を…… 女みたいな仕草をするのは嫌だけど~ 「自分で(いじ)ってみますか?」 「やめっ」 俺の手に重ねた手が、強引に俺の指を動かす。 アキヒトに操られた指が、自分の乳首をこねている。 「ハァ…ぅ」 熱い吐息が漏れた。 「気持ち良さそうですね。感度良くなってるんじゃないですか」 「そんな筈な…ぃ……ハアァ」 甘い息がついて出る。 「ねぇ、統帥」 やっとアキヒトが、その呼び名で俺を呼んでくれて…… ひとりで時を刻んでいた鼓動が、温もりに包まれたかのような感覚がした。 「俺の統帥にキスマークつけられて。ムカつくし、嫉妬してるし、欲情してる。 今すぐ押し倒して、統帥を抱きたい」 「なに言って……フアっ」 アキヒトに押さえられ指で強く摘まんで、胸の実がじんじんする。 痺れが甘美に疼いてくる。 「でも、今は押し倒しません。我慢します。 だから統帥も……今は俺に、なにも聞かないでくれませんか」 「どういう事…だ?」 「必ず話します。だから、今だけ。まずは軍服を着てくれたら、一つ教えますから」 アキヒトは、なにかを隠している。 俺の体に悪戯するアキヒトの声が切なくて……緊迫している。 (お前はいつまでたっても、隠し事が下手クソだな) 隠したがってるくせに、俺に聞いてもらいたい声をしている。 でも。その時は、今じゃない。 「お返事は?統帥」 「ヤ…ァンぅ」 手を外して、湿った舌先がプクリと尖った胸をつつく。 「分かったからぁ~」 「良いお返事です♪」 チュパァ 「ヒァアァァー」 胸の突起を嬲られて、嬌声を上げた。 「統帥、可愛い♪……俺、自制できるかな?」 小さな痛みが掠めた。 右胸の下の…… 「ここ、俺のお気に入りにしよっかな♪」 蜂蜜を溶かした淡い琥珀の眼差しが、上目遣いに見上げる。 ほくろの位置に、キスマークを付けられた!

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