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Ⅵ【ファウスト】第40話
「撃つかい?私を」
声は俺へのものじゃない。
声は俺を通り越して、俺の背後に向けられている。
「君達に、日本国 副総理が撃てるかい?」
声は、もう一人
背後
ハルオミさんの背中にも。
ユキトとアキヒト
二人が銃を構えて、ハルオミさんを挟む。
「その人を離せ」
「なぜ?妻に触れるのに他人の許可が必要なのかな」
「無理矢理、妻にしたんだろう!
その人は俺の子を産む約束を交わした、大事な婚約者だ」
アキヒトっ
「私達は愛し合って夫婦になった。ナツキも合意の上の婚姻だ」
「αの言葉は信じるに値しない」
「君の配属が決まったよ。私の直属だ。上官を撃つか?」
「上官ではない。男として、お前を撃つ」
「兄上」
カチリ……
撃鉄の鉄錆びた音が響く。
「《トリスタン》投下は承服しかねます」
「脅すのかい。五・一五、二・二六……そうやって力に訴えた軍部の暴走が、歴史の悲劇を生んできた」
「文民統制 の壊れた軍部の暴走は、どうやって止めればいいんですか」
「自衛権の行使だよ 」
フッ……と。
鼻先で笑んだ。
「撃つがいい……」
不意に。
風もなく……
白いマントが翻る。
「君達に日本を導く覚悟があるのなら、私を撃ちたまえ!!」
掲げた手の中にあるのは……
「《トリスタン》起爆スイッチだ。ボタンを押せば《トリスタン》が臨界点に上昇する。
駿河湾に入ると同時に、マルク浮上。《トリスタン》を発射する」
ハルオミさん、本気なのか。
「《トリスタン》が敵に渡れば、この国は死ぬ。
今、私を撃てば、内乱状態のこの国はアジア・欧米列強に侵略されるだろう。
植民地は、国家の死だ」
ナツキ
ユキト
アキヒト君
「選べ。
君達は、どの『死』を選択する?」
死にたくなければ………
「私と共に生きる覚悟はあるかい?」
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