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Ⅵ【ファウスト】第45話

滅ぼす国の名は『日本』 「プロイセンが密売人を大使として送り込み、我が国で内乱を誘発させて植民地化を企てた。 ……筋書はこうだよ」 ハルオミさんの手の中には、起爆スイッチがある。 「プロイセンの侵略を阻止するため、やむを得ず《トリスタン》を投下した。《トリスタン》投下被害は、プロイセンに賠償金として支払ってもらうよ」 投下座標は、北緯36度 東経140度 首都 東京 「焼き払う。所詮は反政府組織の密売人だ。生き延びていようとも、姿を現す事はないだろう。 グライスは東京に潜伏、《トリスタン》投下により生死不明……という事にしよう」 フゥっ……と、口角が弧を描いた。 「テンカワ マコトはッ。仮面の男も東京にいるのかッ!」 「それは分からないねぇ」 分からない? 分からないのに《トリスタン》を東京に落とすのか? 「テンカワ マコトが生きていれば、アキヒト君に連絡をよこすだろう。アキヒト君は、テンカワ マコトを追うためのツールだ」 アキヒトは《タンホイザー》を強奪した。交渉が個人で行われたのは、父親だったからだ。 テンカワ マコトは、息子を組織に引き入れようとしたんだ。 点と点とが繋がっていく。 酷く陰惨な幾何学的紋様を描く。 悪意で計算された図式だ。 「仮面の下の顔に興味はない」 藍の眼が呟く。 誰でもいいさ………と。 「《トリスタン》が大地を焼く。太陽の表層爆発…プロミネンス規模の高熱に東京は飲まれ、後にはなにも残らない。 東京に爆発物を仕掛けた仮面の男の配下は、全員死滅だ。 組織とは、部下がいなければ動かない。手足をもがれたトップは、死んだも同然なんだよ」 ハルオミさんッ! 呼ぶ声は届かない。 「シルバーリベリオンの死を公式発表する」 サファイアの双瞳が深淵なる光を帯びる。 「また仮面の男が現れた時は、シルバーリベリオンを騙る偽者だと言えばいいさ。 なにしろ《トリスタン》投下後の東京には、なにも残らないのだから」 証拠はない。 「例え本物のシルバーリベリオンが現れても、同様に処理する」 本物を証明する根拠すらも抹消する…… 「……ナツキ。覚えておくがいいよ。 存在とは勝ち得るものじゃない。周りの人間が認めて『存在』が成立する」 選別は常に行われている。 「ナツキの存在は私が認める。これからも守り続けるよ」 しかし……… 「シルバーリベリオンの『存在』を認める者は、今日いなくなる」 Ωが存在を認めても、αは存在を認めない。α-大日本防衛軍の中で、シルバーリベリオンの存在は消去される。 「戦局は変わるよ。物事の捉え方一つで人の心理は動く。思考の集合が戦争を動かしているのだからね」 この人は、思考という盤上で常に戦争をしているのだ。 黒の支配者(シュヴァルツ カイザー) 勝利への絶対領域が、構成されようとしている。 「君の退路は絶った。君の進む道は唯一つ。 私の妻として生きる事だよ」 シキ ナツキ

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