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Ⅵ【ファウスト】第46話

俺は……… シキ ナツキ……… 俺は、あなたを家族だと思った。 家族は人を縛る檻じゃない。 ………そう考えていたんだよ。 家族って、なんなんだろう? 俺を囲う『檻』の中に入らなければ、人とは『存在』を認められないのか? 「立って!ナツキ!」 掴まれた腕を、グイっと持ち上げられた。 「大事なものは、手離しちゃいけないんだろ?」 俺の手を握っている、大きな手…… 「俺の手を握って」 「ユキト……」 「俺の手を握って!俺が大切だとナツキが教えて。俺もナツキが大切だから。 握ったこの手を離さないよ」 深い深いブラックダイヤの黒に、鼓動が跳ねる。 ドクンッ 脈打った鼓動が飲まれていく。 「お前が大切だ。何度でも言うよ。 お前に変わる存在はどこにもないよ」 ユキトの手があたたかい…… 「大丈夫だよ。俺がいる」 存在とは、勝ち得るものでも、認められるものでもなくて…… 俺の手は、ユキトの手に包まれていて…… ユキトの手を握り返した。 (きっと、そうなんだ) 大切だ……と。 伝えるため 大切だから、と。大切な人を守るための『存在』なんだ。 「好きだよ、ナツキ。ナツキがいるから伝えられる。この気持ちを伝えさせてくれて、ありがとう」 「俺も……」 まだ伝えられる声がある。 大丈夫だ。 (俺には、手離してはいけない大事なものがある) 俺は存在している。 存在できる。 大切なもののために! 「ありがとう、ユキト」 好きだよ、ユキト 「なぁ、愛人って家族なのかなぁ?」 「ナツキが家族だと思えば、家族なんじゃない?」 「………そっか」 着衣の下 キーリングのシルバーネックレスをそっと握った。

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